172 :名無しさん:2008/11/02(日) 17:57:20
ミレーヌできたので投稿しようと思うのだけど
全然リョナに出来なかった……
相応しく無いと思ったらスルーでお願いしますorz

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 生まれ故郷であるブラジル。そしてプロレスラーとして活動していたメキシコから遠く離れた日本と言う国。
 さして大きな会場とは言えないが、その日本で格闘技の聖地とまで言われているホールに控室として用意されたロッカールーム。お世辞に広いとは言えぬ、その控室の長椅子に座り両拳にバンテージを巻きボクシンググローブをその手にはめ込む。

――――懐かしいな、いつ以来だろうか。

 AACでプロレスラーとして活動するよりも、もっと前の事、自分が初めて習ったのがムエタイ。思えばボクシンググローブを手にはめ試合をするのは、その時以来かも知れない。
 脳裏に浮かぶそんなおぼろげな幼少の頃の自分の姿を思い出しながら苦笑を漏らす。

「やぁ新入り君、調子はどう? 少し緊張気味かな?」

 そんな苦笑を漏らした自分へ声がかけられた。生憎自分は日本語が理解できない。しかし、相手の表情を見ればかけられた言葉はわからずとも、大体なんと言われたのか位は理解できる。
 その言葉の主、それは今から自分が試合をする団体を設立したハルカ・ヤマダその人である。

「ヤマダサン、アリガトゴザマス」

 覚えたての日本語。相手に感謝の意を伝える言葉をハルカ・ヤマダへとグローブとグローブを合わせ軽くお辞儀をして見せる。
 このハルカ・ヤマダという人物が創った団体。所属している選手はボクサー、空手家、キックボクサー、ムエタイと様々なジャンルの立ち技格闘技出身者が入り乱れ、その時その時でルールが変わるという試合。その柔軟さからこの日本では確固たるポジションを手にしていた。
 自分は過去ムエタイをベースに長年メキシコAACのプロレス団体に所属していたが、結局ルチャというプロレスには馴染めず小さな頃からプロレスで一旗上げてやるという夢を諦め、立ち技格闘技色の濃いこの団体に参戦したというわけだ。

「えーっと、わかるかな? ……ムエタイ。今日の君の試合は肘も使えるムエタイルールだからね。得意でしょ? ムエタイ。思う存分やったらいいよ」

 覚束無い日本語でお辞儀をした自分に対し、日本語が理解できないと悟ったのかハルカ・ヤマダが少し困り気味の表情を浮かべながら身振り手振りで自分に何かを伝えようとしている。肘打ちのシャドーなどをしている所が見て取れれば、なんとなくではあるがルールの説明をしてくれているのだろう。元より事前に団体側より今日の試合ルールなどは伝えられているので、そんな説明は不要と言えば不要ではある。

「OK。ガンバリマス」

 自分の使える日本語は 「アリガトウ」 「ガンバリマス」 「ゴメンナサイ」 この三つだ。これはAACに所属していた時、日本のプロレス団体から遠征に来ていた選手に、外人はこの三つの言葉さえ覚えれば日本では何とかなると教えて貰った事がある。一生使うことは無いだろうと思っていたが、まさか役に立つ時が来るとは思っても見なかった。
 そんな自分の言葉に安心したのか、ハルカ・ヤマダはニコリと笑みを浮かべ自分のグローブへと拳を落とすと 「ファイト」 と、一言残し控室から出て行った。

――――やれる。ムエタイ自体からは暫く離れてはいたがやってやる。

 静かになった控室。二つのグローブを額に当て、駆け足気味の心拍数を抑えるかのように精神を研ぎ澄ませる。
 プロレスでは叶わなかった一旗上げると言う夢。その夢はまだ私の心を燻らせる。故郷から遠く離れたこの土地で、プロレスとは色の違うこの団体で、またその夢へ――――

173 :名無しさん:2008/11/02(日) 17:59:13


 自信がある訳では無いが、確固たる決意を胸にリングへと上がる。
 反対側のコーナーには今日の対戦相手マコト・コンドウがコーナーマットに向かい軽いシャドーを行っていた。彼女はキックボクシング界から、近頃人気の出てきたこの団体へと転身したようだ。ファイトスタイルとしてはキックボクシングもムエタイもさほど変わりはない。それ故のムエタイルールなのだろう。しかし、自分にはキックボクシングでは良しとされない首相撲、そして肘打ちに慣れている分、些か有利に思える。

『両者リング中央へ』

 レフリーのジェスチャー。そしてセコンドに促される様にしてリング中央へと向かう。控室では駆け足気味だった心拍数も落ち着きを取り戻し、気味の悪いほど冷静な自分に気付けば自然と笑みの一つも零れてしまうものだ。

『5ラウンド。フリーノック――――』

「オイ、なに気味悪い顔で笑ってるんだよ。プロレスラー崩れが、でかい顔できるほどここは甘くないからな!」

『近藤!! 下がれ!!』

 自分の笑みに何を勘違いしたのであろうか、マコト・コンドウは怒った表情で詰め寄るも、レフリーがそこに割って入り事なきを得た。
 マコト・コンドウの捲くし立てるような日本語を理解できなかった自分は怪訝な表情を浮かべながら、レフリーのルール説明に耳を傾け相手とグローブを合わせ様とした時だった。物凄い力で自分のグローブへとマコト・コンドウがグローブを打ち付けた。そこで自分の笑みが相手を怒らせてしまったのだと理解した。

――――面白い。こういう相手は嫌いじゃない。

 もとより人一倍ハングリー精神の高い自分はマコト・コンドウのその行為に対し笑みを浮かべる。先ほどの自然な笑みとは違い、確実に相手を不快にさせるような笑み。
 心臓の鼓動が早まる。駆け足気味だと嫌っていた心拍数は更に速さを増していた。しかし、それが緊張から来るものでは無く、戦いに心躍らせゴングを今か今かと逸る気持ちから来るものであれば嫌う事は無い受け入れられる。

『ラウンド1!! ファイッ!!』

 自分のコーナーへと戻り、マウスピースを口に含みグローブを突き合わせ感触を確かめていると、試合の開始を告げるゴングが鳴り響いた。
 両手を少し前に突き出し、片足を半歩前に。半歩前に出した足で自分のリズムを体全体へと行き渡らせる。ムエタイ独特の構えを取りながら相手の様子を伺う。マコト・コンドウはボクサーなどがよく構える両腕を胸の前に持ち上げ臨機応変にガード対応できるスタンダードな構えで、小刻みに体を揺らし近づいてくる。

「うぉぉぉぉ――――ッ!!」

 先ほどのわざと見せた自分の笑みに逆上したマコト・コンドウがパンチの届く間合いになるや否や大振りのパンチ。見え見えのテレフォンパンチ。立ち技格闘技を久しく実践していなかった自分でも流石にそのパンチを喰らう事は無い。
 マコト・コンドウの拳をパリングで叩き落とし、右ストレートを放つ。

「が……ッ」

 自分の拳がマコト・コンドウを見事に捕え、相手が尻餅をついた。
 その光景に裂けんばかりの歓声。よもや一撃でダウンを奪われるとは思っても見なかったマコト・コンドウの表情は呆けていた。しかし、右拳に手応えを感じる事の無かった自分には、それがフラッシュダウンだと言う事くらいわかっている。何よりマコト・コンドウが既に立ち上がりファイティングポーズを取っているのを見ればそれは明らかだった。

――――体は覚えているものだな

 一連の動作で見せたパリング。簡単に見えるその動作ではあるが、一日二日で出来るようなテクニックでは無い。幼少の頃に覚えたそのテクニックは今も体に染み付いているのかと思うと、何故だか嬉しくてたまらない。
 
「シッ! ハッ!! フッ!!」

 たとえ相手がフラッシュダウンだったとしても、ダウンを奪ったという事実が自分を精神的優位へと押し上げる。相手もまた開始直後一発でダウンを奪われたという事実に尻込みせざるを得ない状況へと追い込まれる。
 その機を態々逃す事は無い。勢いの付いた自分。尻込みをしているマコト・コンドウ。優劣は明らかだった。ロープ際へと追い込み、ガードを固める相手へのラッシュ。ムエタイをしていた頃の自分を脳裏で重ね合わせ相手を攻め立て左フックがマコト・コンドウの頬を捉えると、その首が弾き飛ぶかの様に大きく捻れた。

――――終わりだッ!!

174 :名無しさん:2008/11/02(日) 18:00:13


 返す刀で右肘を合わせたその時、視界が大きく揺らいだ。そして、自分の下半身から力が抜けていくのがはっきりと解る。倒れたくは無いのに立っていられない。そして崩れ落ちるようにしてリングへと跪いた。
 相手が見せたフラッシュダウンとは違う。明らかにダメージによるダウン。そんな中、ニュートラルコーナーへと戻ったマコト・コンドウを見ると、してやったりと口端を吊り上げていた。
 左フックで大きく跳ねたあの場面、恐らくマコト・コンドウ自らが首を捻りダメージを逃がしていたのだと気付く、そしてそれに気付かず自分は右肘を繰り出しカウンターを喰らったのだと言う事も――――

 レフリーのカウントが進む、しかし焦ることはない。10数えるまでに立ち上がりファイティングポーズを取ればいい。その少し間でも休み、下半身に力が戻るのを待つ。
 そして、レフリーがカウント8を数えると同時に立ち上がりファイティングポーズを取る。ダメージは残っているものの、試合が続けられない程ではない。
 試合が再開されると、先ほどまで威勢の良かったマコト・コンドウが妙な落ち着きを見せていた。少し遠めの間合いを保ちリング内を所狭しと軽快なフットワークで動き回る。

「しゃぁッ!!」

 マコト・コンドウの掛け声と共に放たれるローキック。その動き目では捉える事が出来た。後ろに引くことで簡単にかわせる。そう思った自分は脳からその信号を体全体へと行き渡らせる途中。パチンっと渇ききった音が耳に飛び込んでくる。
 それはかわせると思っていたローキックが、自分の太腿を捕えた音。脳からの信号が体に行き渡る前にマコト・コンドウの蹴りが己の脚を捕える。

――――何故だ。目では見えているのに。

 それは不思議な感覚だった。目で見え、来るとわかっている相手の攻撃がかわせない。頭ではわかっているのに体が動かない。
 その後、マコト・コンドウの打撃が自分を襲う。見えているのにかわせない、この状況のまま自分は良い様に打撃をくらい続けた。

「プロレスラーのそのガチガチに重い筋肉で、アタシの打撃がかわせるとでも思ったのか?」

 第一ラウンド終了間際、不本意ではあるが何も出来ないで終るよりはと、残り時間首相撲では無くクリンチに逃げた自分の耳元でマコト・コンドウがそう呟いた。
 プロレスラーというのは難儀なものだ。相手の繰り出す技を敢えて受けきらねばならない。そのために必要なものは、相手の技を耐え切る強靭な体だ。他の格闘技とは違い分厚い筋肉に体を守ってもらわなければすぐにでも壊れてしまうだろう。
 自分もプロレスラーと言うには細身ながら、長年そのような鍛え方をして来た。長年プロレスに浸かった体は、いつしか相手の攻撃をかわすという行為を忘れ、ほんの数秒、いやコンマ何秒の世界ではあるが、脳から送った信号に体の反応が遅れていたのだった。
 この団体に来る前まで、相手の攻撃をかわし、殴り、蹴り倒す世界に身を投じていたマコト・コンドウの打撃を、そんな体の自分がかわすことは不可能に近い。認めたくはない現実。それを悟ってしまった。

――――どうしろというんだ。最初から勝ち目なんてこれっぽっちも無い戦いだったんだな。

 その言葉を聞かされクリンチをしている間、そんな思いが胸を過ぎた時、第一ラウンドの終了を告げるゴングが鳴った。

 ダメージを負った重い体を引き摺って自分のコーナーへと戻ると、顔見知りでもないセコンド達が事務的にスツールを取り出しそれに腰を下ろす。
 この遠い地で戦う自分は一人だ。事務的に全ての作業をこなすセコンド。安物を使っているのだろうか、顔や体に塗られたワセリンの臭いが酷く鼻につく。淡々とこなされる作業の中、ぼぅっとした頭のまま天井を見上げ、情けない自分を自嘲交じりに笑う。

――――ざまぁない。ただ、このまま終って堪るか。

 自嘲の笑いはネガティブな自分を奮い立たせるために漏らした物。たとえ勝ち目が無くとも、一矢報いる事はできるはず。つかの間のインターバルで第一ラウンドで負ったダメージを少しでも無くすために深呼吸を繰り返す。

――――拳は握れる。下半身にも力が入る。あぁ、それだけで十分だ。
 
『セコンドアウト』

 どこの骨とも知らぬプロレスラー崩れにかける言葉など無いのだろう、アナウンスと共にブザーが鳴るとセコンド達は無言でリング下へと降りていった――――

175 :名無しさん:2008/11/02(日) 18:01:22
ラスト

「ぶはっ……は……ッ……はぁ……はぁ……ッ」

 試合は第3ラウンドの終わりを告げるゴングが鳴り、自分はまた事務的なセコンドが待つ自分のコーナーに用意されたスツールへと腰を下ろし、誰に言われるまでも無くマウスピースを吐き出す。
 セコンドの両手に落ちたマウスピースは唾液と血が混ざり、鼻孔からは止め処なく血が垂れ落ちる。左瞼は塞がって距離感が上手くつかめずセコンドの差し出す給水ボトルのストローが上手く咥えられない。マコト・コンドウの執拗なローキックに両太腿は鬱血し、その部分だけ褐色の肌色は浅黒く変色を起こしていた。

――――我ながらよくここまで耐えたものだ。

 第1ラウンド終了後のインターバルで必ず一矢報いる。そう思っていたのも夢物語だった。3ラウンド終って今はそう思う。良い様に殴り続けられ、酷い顔のまま相手のコーナーを見ると、マコト・コンドウは笑っていた。セコンドと何かを話しながら笑っていた。
 何も出来ない自分を馬鹿にしているのだろうか……。いいや、あれはもう自分との戦いの事など視界にすら入っていない。後はどう倒そうか、そうセコンドと吟味し、余裕を伺わせる笑み。
 どんな内容にせよ、試合中ああしてセコンドと言葉を交わせるというのは羨ましいものだ。セコンドと言葉を交わそうにも自分は日本語が喋れない。孤独な戦い……。

「ドモ……ア……アリ……ガト……」

 恐らく自分は次のラウンドでマコト・コンドウに倒されるであろう。まったく見も知らずの自分に対し事務的ではあるが作業をこなし続けるセコンドへのお礼。殴られ腫れた口元上手く喋れたかは定かではない。その言葉を言い終えるとセコンドアウトのブザーがなる。
 立つだけで両脚には激痛が走る。それを我慢しながらリング中央へと向かう自分の背中から聞きなれた日本語が聞こえた。 「ミレーヌ頑張れ!!」 それは、今まで事務的に作業をこなして来たセコンド達からの声だった。
 その場でセコンドへと振り返りマウスピースの含んだ口で声は出せないが、言葉は出さず口の動きだけで伝える。 「ガンバリマス」 と。

『ラウンド4!! ファイッ!!』

「うおぉぉぉぉッ!!」

 プロレスラー時代、野生の咆哮とまで言われた雄叫びを上げながら脚の痛みを我慢してマコト・コンドウへとパンチのコンビネーションを繰り出す。第3ラウンドまで虫の息だった自分が打って出た事に相手は目を丸くし些か驚きを見せていたようだが、所詮下半身に力の入らない打撃が決定打になるわけもなかった。

「ぐ……ッ!!」

 散々痛め付けられた太腿にマコト・コンドウの軽いローキックが触れる。しかし、軽いといっても今の自分には十分な程の威力。痛みに表情を歪ませ動きを止めると、相手の距離を測るようなジャブが己の鼻を潰し、右ストレートが顎を抉る。

「あが……ぁ……ッ……」

 自分の顎がバカになってしまったような感覚。口からマウスピースが零れ落ち膝が折れる。

――――倒れて……堪るかッ

 必死の思いでマコト・コンドウへとしがみ付こうとしたときだ。彼女の二つのグローブが自分の首根っこを挟む。正に首相撲の体勢だった。

「な……ッ!?」

 よもやキックボクサーであるマコト・コンドウがムエタイの技でもある首相撲を仕掛けてくるとは思ってみず、驚きに声を上げる。

「キックボクシンをやっている者であれば、ムエタイだって齧るさ!」

 首相撲によって体は彼女によって振り回され膝蹴りの嵐が腹筋を破壊する。膝を打ち付けられる度体は中へ持ち上げられ、体中の酸素が吐き出される。

――――も……もぉ……駄目だ。

 両脚を駄目にされ、腹筋をも貫く彼女の膝蹴りにとうとう自分の意地がへし折られた瞬間。自分の頭が彼女のグローブをすり抜け、胸部、腹部をなぞりながらすべり落ちリングを舐める。崩れ落ちるようにして倒れた自分はリングでへの字を書いたような体勢で腹部を押さえながら涎の溜まりをつくった。

『――――ナイン……テン!!』

 10カウントをそのままの状態で聞く。悔しくとも両脚は痛みに振るえ立ち上がる事が出来ない。恥かしくともへの字を書いた自分の体制を崩す力すら残っていない。
 ただ、出来ることはそれら全ての感情を涙を流す表す事だけ。顎を打ち抜かれ意識のぼやける中でも腹筋を貫かれた痛みに悶え苦しむ。

 そしてこの試合。自分はこの団体でやっていけるのだろうか。と、言う。一抹の不安を残すだけだった――――。
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