寿零と大空みぎり、二人の新世代ファイターに時を同じくして病院送りにされたマイティ祐希子とビューティ市ヶ谷。
誰もが新時代の訪れを感じる中、団体対抗戦で祐希子vs市ヶ谷がマッチメイクされる。
互いに復帰後初のトップレスラーとの対戦であり、自らが終わっていないことを示すためにも負けられない試合となった。



「……ハァッ、ハァッ、ハァッ…………ッッ!」

荒い息をつくビューティ市ヶ谷。あくまでも気の強い、しかし焦燥感を滲ませた眼差しを、真正面に仁王立ちのライバルに向ける。

「ほらッ、どうしたの!? そんなギクシャクした動きで私を捕まえられると思ってんの、この若年増!」
「……ッッツ! 言ってくれますわね、貧乳娘が……ウォォォォォォォッ!」

雄叫びを上げて祐希子に掴みかかる市ヶ谷。祐希子の右腕を掴むと思い切りロープに振り、自らも助走をつけて膝を突き上げる。

「甘いわね、ほらッ!」
「ぐうっ!?」

並みのレスラーなら昏倒もののジャンピングニーパッドは、しかし祐希子に突き刺さることはなかった。
ロープの反動を利用したトペ・レベルサが、市ヶ谷を吹き飛ばす。

試合開始から何度も見た光景。
両者がこの試合にかける意気込みは並々ならぬものだった。
団体のエースの看板をかけて臨んだ一戦での屈辱。
経験の浅い、彼女らからすればひよっこと言える若いレスラーの勢いに飲み込まれ、
マットに這いつくばり、ボロ雑巾同然の姿を大観衆に晒した忌まわしい記憶を拭い去り、健在を示さねばならない。
この試合は、いわばサバイバルマッチ。トップ戦線への生き残りがかかっていた。
しかしその意気込みは、両者のメンタルに大きな差異を生じさせていた。
寿零の打撃に切り裂かれた祐希子にしてみれば、自らの長年の課題……
打撃に対する防御の甘さを目の前に突きつけられた格好だが、それはファイトスタイルの上積みとして前向きに考えられなくもない。
しかし市ヶ谷は違う。あの試合、彼女は自らの領分である力勝負であの大女……
大空みぎりに叩きのめされ、失禁までさせられたのだ。
みぎりの反則で勝ちこそ拾ったものの、全身これプライドの市ヶ谷にしてみれば慰めにもならない。
消え去ってしまいたい程の悔しさ。
No.1パワーファイターの座と、失ったプライドを取り戻す。
そのためには祐希子『ごとき』力で捻じ伏せられなければ話にならない。
強迫的とも言える思いが市ヶ谷の心と体を縛り付けていた。


「何故ですのっ……!何故こんな…………」

技が決まらない。試合開始10分が過ぎ、開幕当初はそれなりにヒットしていた攻撃を完全に受けきられている市ヶ谷。
気がつけば、自分が圧倒的に追い込まれている。理解できない状況に、思わず歯噛みする。

「何故ですって? アンタ、本気で言ってんの?
 あんな見え見えの、力みまくった技に『ハイどうぞ〜』なんて当たりにいく方がどうかしてるわ。
 ……なめられてんのかと思ったわよ、正直 」

呆れた、と言った風に嘆息する祐希子。

「……ッ、何を言っているのかしら? わたくしはいつだって冷静ですわ! それに、それにッ……」
「そうよねー、私程度の貧弱レスラー、圧倒しないと恥ずかしいもんね? 日本最強のパワーファイターさん」
「…………!!!」

日本最強のパワーファイター。この言葉に、明らかな反応を見せる市ヶ谷を見て、祐希子はニヤリと意地悪そうな笑顔を浮かべ、言葉を続ける。

「力で自分に勝てるヤツはいない。だからこの前の試合は何かの間違いだ。祐希子ぐらい、軽くたたんで見せてやる。大方そんなところかしら?」
「……黙りなさい……ッ」
「そりゃそうよねー、力自慢がアンタの売りだったんだから。それが、まぁ、なんつーか、ああまで遊ばれちゃぁ、ねぇ?」
「……黙りなさいと、言っているのが、……聞こえませんの…………?」
「ま、引きずるだけ引きずってなさいよ。その分、この試合私は楽できるんだから。」
「…………黙れ……黙れええぇえぇええぇぇぇぇッッッ!!」

今一番触れられたくない部分、心のもっともデリケートな部分を抉られた市ヶ谷。
鬼の形相でその豪腕を振り回す。破壊力十分の、しかし大振りで隙だらけのラリアット。

「だからさぁ、甘いって!」

ラリアットを余裕を持ってかいくぐる祐希子。そのまま市ヶ谷の後ろにつくと、

「やっぱり、あせってるじゃない。あんな安い挑発に乗っちゃって。……フンッッ!」

そのままバックドロップで逆さまに投げ落とす。

「ぐあぁっ……!」

くぐもった悲鳴を上げ、マットに倒れる市ヶ谷。
足をガクガクさせながらも何とか立ち上がろうとするが、ダメージの深さは明白だ。
ここで決める。長年トップを張ってきた自分の勝負勘が告げるままに畳み掛ける祐希子。
ふらつく市ヶ谷の頭部に、体重の十分に乗ったフライングニールキックを叩き込む。

「あ……か……はぁっ……」

ろくに受身もできない状態でまともにもらってしまった市ヶ谷。
苦痛の息を吐き出すと、一拍おいて力なくリングに崩れ落ちた。
四肢を投げ出し、苦しげな呼吸を繰り返すその姿は、決着が近いことを予感させるのに十分であった。

「そろそろね……もう終わりにさせてもらうわ。今のアンタにいつまでも付き合ってられないの!」

決着を宣言した祐希子はコーナーポストに駆け上り、右腕を突き上げ観衆にアピールする。
そして身をかがめると、全身のバネを使って天高く舞い上がった。
ムーンサルトプレス。数限りなく祐希子を勝利に導いてきた正真正銘のフィニッシュムーブが、市ヶ谷の体のど真ん中に打ちつけられる。

「げはぁっ…………ッッ!!」

肺を潰されたかのような吐息混じりの悲鳴を上げる市ヶ谷。
間違いない、仕留めた。祐希子は確信する。このまま押さえ込んで、3カウントで私の勝ちだ。


ワーンッッッ! ツーッッッ! スリ……

しかし。

ドンッッッ!!

思いもかけぬ衝撃。こと切れたはずの市ヶ谷が体を跳ね上げ、2.9で祐希子のフォールを返す。

「もう終わり……? 今のわたくしに、付き合っていられない……?」

信じられないと言った表情の祐希子を睨みつけると、抑えの効かない足に無理矢理力をこめて身を起こしていく。

「冗談じゃありませんわッッッ! わたくしを誰だと思っていますの?
 JWI認定世界最高チャンピオン、ビューティ市ヶ谷ですわよッッッッッ!
 貴方ごときにコケにされたまま終わるわけがありませんわ、ええそうですとも!」

ふらつきながらも、怒声を上げ祐希子に近づく市ヶ谷。そして、右拳を思い切り引いてナックルパートを放つ。

「あぐうぅぅぅぅっ!」

相も変わらず見え見えの攻撃は、しかし、祐希子の顔面をしたたかに打ち抜く。

突然のクリーンヒット。打った市ヶ谷も、どうしたことかと自らの拳を思わず見返す。

「うっ…………ううっ…………」

うつむき、低く声を漏らし続ける祐希子。突然の変調に、会場がざわめく。
祐希子に歩み寄る市ヶ谷。そしてそのまま、腕を大きく引きナックルパートを続けざまに見舞ってゆく。
ファイティングポーズをとりガードを上げる祐希子。
しかし遅い。先ほどまでなら対応できていた大振りの技をまともにもらってしまう。
たたらを踏んで後ずさる祐希子。
何とか構え直し、市ヶ谷に向き直る……が、その表情に先程までの余裕はなく、青ざめてすら見える。

「……フフ、ウフフフフフフ…………オーッホッホッホッホッホッホッ!」

祐希子の顔をまじまじと覗き込むと、市ヶ谷は笑顔を浮かべ彼女独特の高笑いを上げ、そして語り掛ける。

「なるほどねぇ……そういうことでしたの。……貴方、そんなにショックだったのねぇ、必殺技を返されるのが」
「な、何を……私が、そんな……」
「認めたくないのはわかりますわ。……でも、顔に出てますわよ。
 フフッ、人のことを散々言っておいて、貴方が一番引きずってるんじゃありませんこと?」

市ヶ谷の言うとおりであった。
先の試合で完全に決まったムーンサルトプレスを返された祐希子。この技が返されること自体は少なからずあった。
しかし、それは相手のダメージを勘案するとまだ仕掛けが早かったか、あるいは当たり具合や技自体のキレがいまいちだったという自覚、救いがあった。
しかしあの試合、寿零は完璧なムーンサルトプレスをKO寸前の状態にもかかわらず返して見せた。
そのときから、祐希子の頭に『自分の必殺技は通用しなくなってきているのではないか?』という疑念の種が植え付けられた。
そして今の市ヶ谷が同じような状況で返してきたことでその種は芽吹き、祐希子の全身に不安を広げているのである。

「……ま、いいですわ。引きずってくれたほうが、わたくしが楽できますものねぇ? ……そらっ!」

先程祐希子に言われた言葉を返すと、ボディアッパーを見舞う市ヶ谷。
今までとは違う、ダイナミックにしてスピーディな市ヶ谷本来の動き。

「げふぅぅっ! おぐぇぇぇぇぇ……ッ!」

やはり反応が遅れる祐希子。レスラーとしてはそう強いほうではない腹筋を打ち抜かれ、腹を両腕で抱えてうずくまる。
うずくまった祐希子を捕らえ、高々と持ち上げる市ヶ谷。
そして、そのままブレーンバスターで祐希子の後頭部をリングに打ち付ける。

「ぐあああぁぁぁぁっ! あぎっ、ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」

頭を抱えて転がり、のたうつ祐希子。頭を襲う激痛に、たまらずリング外に転がり落ちる。

「何ですの? 逃げるおつもり? あれだけ調子に乗っておいて、随分と無様ですわね。……残念ですが、許してあげなくってよ。」

祐希子を追って自らも場外に降り立つ市ヶ谷。

「ハァ、ハァ…………こっ、こんな……こんなことが……」

祐希子も立ち上がって何とか迎撃体制を作る。が、腰が引けている。体が動かない。

「……あら、てっきりそのまま逃げ帰るのかと思いましたわ。ま、その意地だけは見事なものね。
 ……ご褒美です。全力で、叩き潰して差し上げますわッッッ!」

叫ぶな否や、豪腕を振り上げる市ヶ谷。先のそれとは違う、パワーもスピードも十分なラリアットを祐希子の咽元に叩き込む。

「……………!!……………………ッッッ!!!」

首を支点にしてグルンと一回転すると、声も上げずに場外マットにその身を打ち据える祐希子。
その目は焦点を失い宙をさまよう。それでも何とか立ち上がろうとするが、その足は地面を掴むことができずにズルリと滑っていくばかり。

「ほら、起きなさい! この程度で楽になれるとでも思って?」

もがく祐希子の頭をむんずと捕まえて引き起こすと、そのまま抱え込んでパイルドライバー! 

「ぎゃふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

そして間も置かずにパワーボムを続けざまに炸裂させる。

「ぐふぉ…………ッッッ……!」

薄い場外マットに頭部を散々叩きつけられ、急激に力を失っていく祐希子。
信じられないことに、これまでの市ヶ谷の猛攻を祐希子は受身を取らずに全てまともにもらっている。
……いや、受身を取ろうとする意思に体が反応しない、と言ったほうが正しいか。
万全の必殺技が通じないショックは、祐希子の強さの根幹でもあるベーシックなプロレス技術をもガタガタにしてしまった。
マイティ祐希子のプロレスが、音を立てて崩れてゆく。
グッタリと四肢を投げ出し、ただ呻き声を漏らすだけとなった祐希子を、しかし市ヶ谷はまだ許そうとはしない。

「あら、意地はあるけど体はそんなに強くないのね。……メインディッシュがまだでしてよ!」

祐希子の首を左手で引っつかむと、そのまま高々と吊り上げていく。
それまでのダメージがウソのようなパワーを見せ付けながら、祐希子の白い首をギリギリと締め上げるネックハンギングツリー。

「あ……ぐっ、げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………ッッッ」

息も絶え絶えのところに更に気道を潰され、もがくことも出来ずに耳障りな呻き声を垂れ流すだけの祐希子。

「情けないわね……あれだけ大口叩いておいて、反撃のひとつも出来ないんですの? もっと足掻いて御覧なさい、ほらほらっ!」

反攻の気配すらない祐希子に不満げな声を上げる市ヶ谷。
さっきまで追い込まれていた人間とは思えない物言いだが、それだけ市ヶ谷がペースを取り戻したという証拠でもある。
左腕一本で、祐希子を力任せに上下に揺さぶっていく。

「あがっ、がっ、ぐぇぇ、げっ、ぶげぇぇぇっ」

家畜が絞め殺されるような情けない声を上げる祐希子。
激しい上下動に頭の中がグチャグチャに掻き回されるような感覚。
最早今感じているものが苦痛なのか何なのかさえわからない。
出来ることといえば、動きに任せてだらしなく伸びた手足をガクンガクンと揺らすことのみ。そして。

プシャァァァァァァァァァァァァァ……

弛緩しきった肉体は限界を超え、股座から黄色い水を噴出させる。しかし祐希子にはその自覚すらない。

「…………っ、かひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………」

「まぁ、はしたない…………全くレディとは思えませんわねぇ。
 まぁいいですわ。そろそろ頃合です。今の貴方にいつまでも付き合っていられませんものね」

そう嘯くと、市ヶ谷はそのまま祐希子をリングの中に投げ入れる。
そして自らもリングに戻ると、祐希子をパワーボムの体勢に捕らえ、更に高々と持ち上げる。

「……さぁ、これで終わりです。知りなさい、これが本当の必殺技と言うものですわっっっ!」

高く持ち上げた祐希子を反動をつけて思い切り振り下ろす。ビューティ市ヶ谷のスペシャルホールド、ビューティボム!

(あ……受身……取らなきゃ…………このままじゃ、負けちゃう……)

振り下ろされる刹那、祐希子はおぼろげな意識の中でそれでも必死に反撃の筋道を探っていた。

(受身、取って……耐えれば………それで、ダウン……取って………………)

(ダウン……………取って…………)





(……………どうすれば、いいんだっけ……………………)






ドッゴォォォォォォォォォォォォン!!



「ぐひぃ…………………………………ッ………」

リングにめり込まんばかりに叩きつけられた祐希子。
カエルが潰されたような声をたった一つだけ漏らす。叩き潰されたその瞬間、祐希子は意識をアッサリと手放した。
自ら作り上げた、マイティ祐希子というプロレスラーも一緒に。
そのまま市ヶ谷に押さえ込まれるが、最早返すような気配すら感じられなかった。


ワーンッッッ! ツーッッッ! スリーーーーーー!


勝負が決し、フォールを解かれた祐希子はそのままリングに大の字に崩れ落ちる。
高らかに復活の狼煙をあげ、ファンの歓声に応える市ヶ谷の背中越しに、グリンと白目を剥いて涎を垂れ流し、小刻みに痙攣する無様な姿を晒す祐希子。
その哀れな姿は、祐希子が最早あのマイティ祐希子ではなくなっていることをはっきりと表していた。
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