132 :オリゼー:2009/02/14(土) 06:10:28


「テメ……ッ……どういうつもりだ……ッ……」

 試合直後、マスクに隠されたSA−KIの表情が凍る。SA−KIの視線はリングサイドの観客席へと釘付けにされ、そこには普段氷川砂響として面倒を見ている子共達が、生で感じる会場の熱気に歓声を上げていた。

「どういう……そうね。私はただ恵まれない子供をプロレスに招待しただけ……。なにか都合でも悪かったかしら……?」

 SA−KIと対峙するのはマリア・クロフォード。
 彼女はSA−KIが子共達を見て動揺したのを見逃さず、その口端を憎たらしく吊り上げるとSA−KIの言葉に何の事だか。と、ワザとらしくシラを切る。

「しらばっくれやがって……下衆が……ッ」

 マリアの様子を見れば、子共達を呼んだのも作戦の内だというのは一目瞭然。それが気に食わないSA−KIは奥歯を鳴らし、マスクから覗かせる目つきをより一層鋭いものへと変えた。

「ふふ……いいわねその顔……。でも、まだまだこれからよ……その顔を苦しむ表情に変える事ができたら、さぞ気持ちがいいんでしょうね……」

 そう言ってエナメル革のコスチュームに包まれた指を愛おしく舐めずり回したマリアからは、心なし妖艶な雰囲気が感じとれ、鋭く睨むSA−KIを挑発するかのように自らの唾液で濡れたその指先を折り曲げる仕草を見せる。

「ふざけんじゃあねぇッ!!」

 相手の挑発にのるようなタイプではないSA−KIが珍しくマリアの挑発に乗せられた。
 マスクをしている限り子共達に自分の正体がバレる事は無い。だが、万が一という不安がSA−KIに冷静さを失わせたのだろう。怒声と共にマリアへぶっきらぼうに手を伸ばす。

――――掴んだ。

 SA−KIがそう確信した瞬間。SA−KIの視界は360度回転し、体はリングへと叩きつけられていた。
 マリアが乱暴に伸ばしてきたSA−KIの手をタイミングよく巻き込み、アームホイップでSA−KIの体をいとも簡単にリングへと投げ付けたのだ。

「ぐ――――ッ」

「さぁ、貴方の体で……色々とためさせてもらおうかしらね」

 リングへと倒れたSA−KIを尻目にマリアはエナメル革の手袋の緩みを、まるで手術を始める医者がゴム手袋をはめるかのように締め直した――――

133 :オリゼー:2009/02/14(土) 06:11:40


 挑発に乗りあまつさえ先手まで奪われたSA−KIの動きは精彩を欠いていた。
 普段であれば何を気にする事無くリング内で暴れまわっている所ではあるが、やはりリングサイドにいる子共達が気になって仕方が無い。
 自らの声色は変えているものの地の声がでてしまったら? 何かをきっかけに子供に正体がバレてしまうのではないかという気持ちから、あまつさえ普通にしていれば取れることは無いであろうマスクが今日に限っては緩く感じてしまう。

「動きが鈍い見たいね……あの子達に気を取られてる暇なんて、貴方には無いのだけれどッ?」

 マリアはいつの間にか入場時のパフォーマンスで使う鞭を手にしており、動きの鈍いSA−KIへとその鞭を撓らせた。
 巧みな手さばきで操られたその鞭はまさに蛇のようにSA−KIの首へと絡みつき、獲物を絞め殺すかのようにSA−KIの器官を絞め潰していく。

「げ……ぁ゛……ッ……」

 SA−KIが苦悶の表情を浮かべながら首へと絡みついた鞭を解こうと両手をかけるも、それをさせまいとするマリアがSA−KIを引き寄せるように鞭を引くと、両手を使おうが解けなくなるほどに鞭はSA−KIの喉元へと食い込んでみせた。

「いい表情ね。堪らないわ……」

 器官を搾られ苦悶の表情から口を半開きにしたSA−KIから、か細い呼吸音が聞こえるたびマリアの表情は見るものを不快にさせる様な笑みを深くしていく。
 呼吸も満足に出来ず、反撃すらままならないSA−KI。出来ることと言えば酸素が足りず力の抜けかけた下半身を無理にでも踏ん張り、マリアと自分の間でピンと張った鞭を両手で掴み自分の方へと引っ張り絞められる力を緩める事くらいか

「ヤ゛……ロ゛……ッ……ォ゛……ぉあ゛ッ!?」

 そんな中、綱引き状態の鞭がいきなり緩んだ。マリアが鞭を放したからである。
 力の均衡が突然片方のみに偏るともなれば、偏った側はバランスを崩す事になる。そう、バランスを崩したのはSA−KIだった。
 力が抜けた下半身のままバランスを崩してしまえばSA−KIはいとも簡単にリングへと尻餅を付いてしまう。が、マリアが鞭を手放した事により鞭を解くチャンスでもあった。

「解いている場合かしら?」

 SA−KIが巻き付いた鞭を解こうと両手をかけた瞬間。マリアのそんな声が聞こえたと思えば、SA−KIの視界はマリアのブーツの裏底で遮られる。
 それはマリアが鞭を放したと同時に走り、尻餅を付いたSA−KIへと繰り出した低空ドロップキックだった――――


「や……やめろ……ォ……ッ……!!」

 序盤から完全にペースを奪われたSA−KIは未だに防戦一方。
 そして、今まさにSA−KIにとっておきて欲しくなかった事がおころうとしていた。子共達の観戦するリングサイドに一番近い所。SA−KIはうつ伏せとなり、自らのマスクを手で押さえていた。
 そのうつ伏せのSA−KI対し、SA−KI背中へ腰を下ろしたマリアがマスクを剥がそうと手をかけていたのだ。
 SA−KIがマスクを必死に押さえるも、マリアはお構いなしにマスクを引っ張り上げようと力を込める。すると、そのマスクは次第に目元の辺りから裂け始め綻びを見せていく。

「さぁ……ご対面といきましょう? 子共達を騙し続けるのは良く無いわよ? 本当の私は下品で粗暴でどうしようも無い人間だって事を教えてあげなくちゃ――――ねッ!!」

 マリアが力一杯マスクを引っ張り上げたその時。遂にSA−KIのマスクは限界を向かえ、目元から裂ける様にして破り捨てられた。

134 :オリゼー:2009/02/14(土) 06:13:37


「い……いやぁぁぁあああ――――ッ!!」

 会場全体にSA−KI。いや、氷川砂響の悲鳴が響き渡る。最後の悪あがきとでも言うのか、マスクを破り捨てられた氷川砂響が目の前の子共達に素顔を晒すまいと、両手で顔面を包み込む。
 しかし、それは簡単に剥がされた。 「あら……恥かしがる事なんてないのよ?」 という声と共にマリアが氷川砂響の髪を片手で掴み持ち上げると、もう片方の手で氷川砂響の手を掴み上げる。

「あ……ぁ……――――。……い……で…………ない……で……見ない……で……」

 両手を剥がされた氷川砂響の視界に映ったのは、茫然自失とした子共達。
 無理も無い。氷川砂響がSA−KIとしてこのリングに入場する際、観客をこれでもかと罵倒し悪態をついていた姿を見ていた子共達には受け入れがたい真実。
 あの憎たらしいSA−KIが虫も殺せ無い様な優しい優しい氷川砂響だと幼い子供がどうして受け入れられようか。

「可哀相にね……見て御覧なさい? あの子共達の顔……あらあら、泣き出してる子までいるじゃない」

「ち……ちがう……ちがうの……みん……な……ぁ……ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛――――ッ!!」

 まるで断末魔のような叫び。それが氷川砂響から放たれる。
 気でも違ってしまったかのように一頻り叫んだ氷川砂響であったが、その後は全身から力が抜け、掴み上げられた頭部もしな垂れ 「違うの……違うの……」 と、何かに取り憑かれたかうわ言のようにそう繰り返し呟くだけ。

「……残念。あんなキャラを演じるくらいなのだから、もっとしっかりしたモルモットかと思ったのだけれど……ね」

 マリアは恐らく聞こえていないであろう氷川砂響に対しそう吐き捨てると、興味が失せたのか掴んだ髪を離しつまらなそうに立ち上がり、まるでゴミでも扱うかのように足蹴にして、うつ伏せの氷川砂響を仰向けにすると相手の上半身だけを起き上がらせた。

「壊れてしまったのは誤算だったけれど、最後くらい苦しむ表情で私を気持ちよくさせて貰えないかしら?」

 マリアの腕がするりと氷川砂響の首元へと滑り込み、相手に抵抗すらされなければマリアはいとも簡単にスリーパーホールドを完成させて見せる。

「ち……が……ぁ゛……ッ……ぁ゛……ぇ゛……ッ……ぅ゛」

 スリーパーホールドから来る苦しみか、はたまた子供に正体がばれたショックからくるものか、スリーパーホールドを極められた氷川砂響の両目からは涙が零れていた。苦しそうな表情も相まって流れ落ちる涙はマスクを剥がされ今にも絞め落とされようとするマスクウーマンの悲愴感をより一層引き立たせるか。
   
「貴方、惨めね……でも……それがいい。残念と言ってしまったけれど今の貴方は本当に素敵」

 マリアが氷川砂響の耳元でそう囁くも、まともな返事は無く返ってくるのは 「ぁ゛ー……」 と、言う落ちかけた氷川砂響の訳のわからぬ声だけだった。誰もがこれで終る。マリア自身もそう思っただろう。
 が、その矢先。 「痛ぅ――――ッ!?」 技をかけていたはずのマリアがスリーパーを解き二の腕を押さえ氷川砂響の体から離れた。

「ぁ゛ー……はっはっは………ハハ……そうか……そうだ……間違いないよ……そうに決まってる……くふふ……ふふふ……あはははは」

「な、何……なんなのよ……一体……」

135 :オリゼー:2009/02/14(土) 06:15:59


 それはいきなりの出来事だった。マリアに背中を向けたままの氷川砂響が不気味な笑い声を上げ始める。
 マリアはそれに対しある種の恐怖というものを感じながら、痛みの帯びる二の腕に視線を落とす。すると、エナメル革のコスチュームにはっきりと残る歯型。痛みの正体は氷川砂響の噛み付きと言った所か。

「あの子達は幻……そう……幻……だって、そうでしょ? 神父様があの子達をこんな物騒な所に連れ出す許可を出すわけがないもの……ふふふ……だからぜぇんぶ幻……」

 何がおかしいというのか、氷川砂響は肩を震わせながらクツクツと笑い。リングサイドで観戦している子共達は幻だ。と、何度も繰り返す。それはまるで自分にそう言い聞かせる口ぶり。

「そして私に幻を見せているのは……テメェだッ!!」

「ひ――――ッ」

 そして、ゆっくりとマリアへと振り向いた氷川砂響。その表情を見たマリアの表情が一気に強張り血の気が引いていく。
 氷川砂響は笑っていた。いや、笑うと表現するにはおぞまし過ぎるかも知れない。口元は三日月型に曲線を描いているものの、両目は大きく見開かれ瞳の白い部分は涙を流しすぎたのか充血を見せていた――――


「全部幻。そう、だからあの子達はこの場所に居ねぇ……いねぇんだよッ!!」

「な、何をいっているの……幻なんかじゃ――――ッ!?」

 氷川砂響の口調とSA−KIの口調が織り交ざる。マスクを剥がされ素顔を晒した外見は氷川砂響であるが、中身はSA−KIに戻ったとでも言おうか。
 その異常さに恐れ慄き距離を取っていたマリアが、全て幻だと言うそれを否定しようとした次の瞬間には氷川砂響の姿を見失う。
 氷川砂響は地を這うような低い体勢を保ったままマリアの足元へ素早い動きで潜りこみ両脚でマリアの脚を挟み込みうつ伏せに転ばせると、無駄一つない動きでマリアの背中へと座り込んだ。

「テメェさえ……いなければ……テメェさえ……なぁぁぁッ!!」

「ひぎ……ッ……ぁ゛……あ゛が……ッ……はッ……ぐ……ッ」

 素顔のSA−KIがマリアの顎を両手で掴むと、自らの体をこれでもかと後方へと倒すキャメルクラッチでマリアを攻め上げる。
 マリアの背中は曲がってはいけない方向へ弓なりに曲線を描き、両目を大きく見開いて、痛みと苦しみに喘ぎを上げ、口端からは唾液が零れ、もがく両手は虚しく宙を掻く。

「ハっハーッ!! どうした? 苦しいのか? えぇ? おい、苦しいのかって聞いてんだよ」

「ごぁ゛……げ……へ……ッ……ぐぶぅ……ッ……」

 誰が見ても曲がり過ぎている。と、思わせる程反り返ったマリアが返事をする事など出来やしなかった。喘ぎは徐々に濁りを見せ、口端から垂れ流された唾液は泡状の物へと変わっていく。
 ミシリ、ミシリとマリアの脳裏にだけ聞こえる背中の軋む音。これ以上極められ続けては背骨を圧し折られる。だがわかっていてもどうする事もでき無いマリアの力が徐々に抜けていった。

「終らせてたまるかよ」

 このまま極め続けては相手の意識が絶たれ試合を止められる。そう悟ったSA−KIがようやくマリアを解放するも 『SA−KI! まて!』 割って入ったのはレフリーだった。
 と、言うのも解放されたマリアは既にピクリとも動かない。かすかな呻き声だけを上げなんとか意識だけは残っているといった状態。そんな状態でレフリーが黙ってみている訳にもいくまい。

136 :オリゼー:2009/02/14(土) 06:17:12


「っるせぇ! 豚はすっこんでろッ!!」

 しかし、こともあろうかSA−KIは割って入ったレフリーを場外へと投げ捨て、遂にはリング上からレフリーを排除し、これで暫く止める者はいなくなった。と、SA−KIは素顔に不敵な笑みを見せ、くくっと腹の底を振るわせるような笑い声を上げる。
 そして既に虫の息といったマリアへと近づいて足首を持ち上げると、マリアのつま先を力任せに外側へとへし曲げるアンクルホールドを極め上げた。

「い――――ッ!? い゛ぃ゛ぃ゛……ッ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛――――ッ!!」

 あまりの痛みにマリアの意識が覚醒する。
 その声はSA−KIがマスクを剥がされた時の音量を遥かに凌駕し、聞く者が耳を塞ぎたくなるような濁った悲鳴。

「オラ。ここにいる豚共にもっと聞かせてやれ……よっと!!」

「ぎぃやあああ゛――――ッ!! ……あ゛? あ゛……ぁ゛あ゛……ッ」

 言葉を吐き捨てたSA−KIが更に力を込めた瞬間。 耳を劈くようなマリアの悲鳴。
 そしてSA−KIの腕の中に捉えられたマリアのつま先は明後日の方向を指していた。そう、SA−KIのアンクルホールドがマリアの足首を圧し折ったのだ。
 「ははは、折れちまったなぁ」 そういってマリアの足首を投げ捨てアンクルホールドを解いたSA−KIは、酷く楽しそうな笑みを浮かべる。

「ひ、ひ……ぃ……ぃ……た、たす……たすけ……て……ッ」

 もうこれは試合じゃない。恐怖と痛みでメチャクチャになった表情を浮かべたマリアは這いずりながらリングからの脱出を試みるも、その願いは敢無く絶たれた。

「どこ行こうっていうんだ。まだまだこれからだろ」

 逃げるマリアをSA−KIが踏みつけリングに留まらせる。
 まだやり足りない。SA−KIの表情からそんな気持ちが読み取れ、おかしな方向を向いたマリアの足首を一見しそれを鼻で笑うと、うつ伏せ状態のマリアの腕を取り肩に跨りそのまま相手の背中に座り込む変形の脇固め。
 マリアの肩と腕がキリキリと悲鳴を上げていく、そしてマリア自身も金切り声の悲鳴を上げ、痛みがギブアップすら言う暇も与えない。

「ハハハッ!! あははははッ!! あーっはっはっは!!」

 リング上で技を極めたままのSA−KIが大きな笑い声を上げる。それと共にリング下へと落とされたレフリーがゴングを要請したのだろう、笑い声に混じって試合終了のゴングが鳴り響くもSA−KIはそれすら聞こえていないと言うべく技を解こうとしなかった。

――――――
――――
――

 とある街の外れに立てられた少し寂れた教会。
 その教会は育児を放棄された子共。親を亡くした子共、親の虐待から逃れてきた子供、それぞれ心に傷を負っている子供達の面倒まで見ているそうだ。
 教会自体の見た目は寂れていても、そこの子共達は笑顔が絶えず、心に傷があるだなんて思わせない程である。

「砂響お姉ちゃん……帰って来ないの?」

 その中の一人、まだ小学生にもなっていないくらいの女の子が胸元に大きなぬいぐるみを抱いたままポツリとそう呟いた。

「大丈夫ですよ。彼女はきっと、きっと帰ってきますから」

 その呟きを聞いた教会の神父がそう言って子供を安心させるかのように優しく頭部に手を添える。
 
 あの試合の後、SA−KIこと氷川砂響は姿を消した。どこへ行ったのかそれを知る者は誰一人としていない。生きているのか、死んでしまったのか、それすらも不明である。
 
 それでもこの教会の子共達は待ち続けるだろう。

 いつまでも、いつまでも……。
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