207 :名無しさん:2009/02/26(木) 05:26:48
1

「何だか初々しいですねぇ〜」

そう言いながら大空みぎりは、今日デビュー戦を迎えた少女、ノエル白石を見つめていた。
同期生ながら入団時期の違いや団体の方針でデビューまでに海外で特訓を行うなどの理由から二人が顔を合わせるのはこの日が初めてだった。
当のノエルはリングに上がってからずっと、何かするでもなくぼうっとしながら立っている。
丈の短いワンピースのようなリングコスチュームを少女らしいリボンで飾る彼女の姿は、これから試合を行うプロレスラーには到底見えない。

「緊張しちゃってるんですか〜? 周りの人たちはスイカか何かだと思ってぇ〜、思いっきり身体を動かせば良いんですよぉ〜♪」

周りが苦笑するのを気にも留めず、反対側のコーナーに向かってそう声を掛けるみぎり。
自分のデビュー戦で、対戦相手だった先輩レスラーから言われた言葉だ。
そう言えば、彼女が入団したのはその先輩が“いなくなった”後だったか。
そのまま思い出に浸ってしまいそうになっていたみぎりだが、試合開始のゴングの音で現実に引き戻された。

「それじゃあ、いきますよ〜?」

フラフラと自分の方へ歩いてくるノエルに何時ものように掴み掛かっていくみぎり。

「……おっきい」

そう呟いたノエルもみぎりに向けてその手を伸ばし、二人がリングの中央で組み合った次の瞬間、

“ダァ…ンッ!!”

そんな音とともにみぎりの視界が空色一色に変化した。
その空色がついさっきまで自分が立っていたはずのリングであることに気付き、ようやくみぎりは自分が倒れていることを理解した。

「えっ?」

驚きに目を見開きながら顔を上げるみぎり。

「……えっ?」

その様子に、自分が何か間違ったことをしてしまったのかと、思わず掴んでいた手を離してしまうノエル。
そのまま互いに見詰め合っていたが、予想もしていなかった光景にざわつく観客の声で我に返ったみぎりは慌てて立ち上がり身構えた。
やや前屈みになりながら左右の手開き、それぞれを顔横と肩下の位置からやや前に突き出す、力比べを挑む構えだ。
力比べといっても、そこには様々な駆け引きやテクニックが存在し、単純な力押しで全てが決まるわけではない。
しかし、それらを自身の圧倒的な力で打ち破ってきたみぎりには何故自分が倒れているのかわからなかった。
混乱と緊張の色を帯びたみぎりの表情が見えていないのか、それでもノエルは警戒する素振りも無くそれに応じる。

208 :名無しさん:2009/02/26(木) 05:30:36
2

「やぁっ!」

組み合うと同時に珍しく鋭い声を上げながら、ノエルの華奢な身体をリングに押し倒し、そのまま握り潰さんと押し込んでくるみぎり。
両手に掛かる圧倒的な体格差というアドバンテージを伴った力の強さに僅かに目を見開いて驚きの表情を作るノエル。
巨大な暴力に曝されるその小さな手は、しかし、みぎりの思惑に反してまったく動こうとはしなかった。

「……んっ」

「きゃあっ!? ……ぃったぁ……っ……」

微かな声が聴こえると同時に再びみぎりの視界が一変した。
ノエルに押し掛かっていたはずの自分が、リングに膝を突いて見下ろされている。
両手首は完全に決められており、じわじわと伝わってくる痛みに呻くみぎり。
何とか振り解こうと試みるもまるで適わず、逆に力任せに投げ捨てられてリングに叩き付けられた。
小柄な新人レスラーが見せ付けた、その外見からは想像も付かない程の力にどよめきの声を上げる観客。
当人は何を騒いでいるのかよくわからない様子で周りをきょろきょろと見回していたが、みぎりが立ち上がろうとすると今度は走って近づいていく。
追撃を加えようと迫るノエルに対し、みぎりは咄嗟に水面蹴りを放ちその足を払う。

「ふぁ?」

全く予期していなかったのか、あっさりと転倒するノエルの身体を抱え上げて超高層ボディスラムで投げ捨てるみぎり。
その背をサッカーボールキックで蹴り飛ばし、今度は裏投げでリングに叩き付けてすかさずギロチンフォールで追撃!!

「ぶぅっ!!」

みぎりの巨体に備わった武器はそれだけではない。
器用なレスラーに振り回されないようにと教えられた技をその僅かな練習で身に付けてしまう程の素質に恵まれている。
まして、ノエルの動きはまだまだぎこちなく、掴まりさえしなければ脅威ではない。
焦る自分を無理やり抑えながら、何度も向かって来るノエルに次々と技を繰り出し、みぎりはそう考えていた。
繰り出されたラリアートが叩き付けられる直前、その巨体に似合わぬ素早い動きで回避し、そのまま手首を取って脇固めに捉える。

「い゛た゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!?」

悲鳴を上げたのはみぎりだった。
脇固めが完全に決まる直前、ノエルは咄嗟の抵抗に腕を抱えるために前傾していたみぎりの顔を掴んでいた。
片側の頬から耳の辺りまでを辛うじて掴んでいるだけの状態だが、そこに込められた力は尋常ではない。
頭を引き千切られるような痛みから逃れるため、その手を引き剥がそうとするみぎり。
ノエルはそれを攻撃の意思と受け取った。

209 :名無しさん:2009/02/26(木) 05:33:33
3

「……いたいの、やぁ」

そう呟くと、みぎりの顔面を力任せにリングに叩き付ける。

“バァン!!”

何かか破裂するような音が会場に響き渡る。
その凄まじい威力にみぎりは意識を失うものの、手首を掴む手は離れていなかった。
それを見たノエルは、今度はみぎりの頭をまるでコールドスプレーのように振り回して引き剥がし、ぐったりとした身体を放り捨てる。

「っぅ!?……げぇ……ぇぇぅっ」

衝撃で意識を取り戻したものの、散々に脳を振り回されたことによって意識はグシャグシャ、そこに激痛と嘔吐感が戻って来た。
意識の回復と同時にこれらを一度に浴びせられたことで、みぎりの気絶という自己防衛の手段は破壊された。
リングに倒れ伏したまま否応無く苦痛に苛まれるみぎりの顔をぬるりとした感触が伝う。
その目に飛び込んできた真っ赤な血に染まったリングだった。
リングに叩き付けられた時に額から流血したのだが、まともな思考ができないみぎりは自分の顔を引き千切られたかのような錯覚に陥った。

「……っ!? ひっ…っぁぁ……あぁあああぁあああぁあぁぁぁぁっ!!」

恐怖に滅茶苦茶に手足を振り回して暴れるみぎり。
ただ事ではない様子に近寄ってきたノエルだが、しゃがんだところに飛んできた足が顎に当たり、リングに蹴り倒された。
その手応えに目を向けると、散々自分を痛め付けていた相手がリングに倒れていた。
痛みを訴える身体を必死になって這わせ、ノエルの上に馬乗りになるとその顔目掛けて拳を振り下ろした。

「っ!! っぶぁ!! っうぁ!! っぅぅ!! っぁぅ!! っがぁ!! っんぁ!!」

暴力という捌け口に縋る以外に正気を保つ手段を持たないみぎりは狂気に憑かれた顔で殴り続ける。
一瞬呆気に取られたものの、すぐにレフリーが静止するべく駆け寄った……が、

「……い……ぃたぁ……」

睨んでいるのか、涙を溜めた目やや吊り上げたノエルがみぎりの拳を受け止めていた。
マウントから脱出するべく硬直しているみぎりの身体を突き飛ばすノエル。
その表情がこれまでに無い驚きに染まる。

210名無しさん:2009/02/26(木) 05:36:36
4

「……ふわふわ?」

みぎりの身体を引き起こし、その胸を鷲掴みにするノエル。
その手つきは触った感触を確かめるためもので、痛みを与えるものではない。
しかし、この手に掴まれる事に恐怖を覚えたみぎりは弱々しくも必死に抵抗する。
それに苛立ったノエルはSTOの要領でみぎりの足を刈って薙ぎ倒そうとする。
みぎりは救いを求めるようにレフリーへ手を伸ばすも、この強大な暴力は些かも衰えることなく二人の人間を飲み込んだ。

“ブヂィ…ィィ…ッ!!”

「ひぎぃ!?……あ゛ぁ゛…ひ…ひゅっ…」

みぎりは自分の胸から何かが千切れるような音を聴いた。
そこにもうひとつ心臓が出来たかのようにはっきりと脈打つのが感じられ、水が染みるように熱さと痛みが広がっていく。
呼吸するだけで、脈を打つだけで耐え難い痛みに曝され、身動きできないみぎりを今度は抵抗できないように両腕ごと身体を抱き抱えるノエル。

「ふわふわ〜♪」

みぎりの胸に顔を埋めて嬉しそうな声を上げながら、抵抗を封じる為に力一杯締め上げる。
自分を締め付ける力の強さに脱出することも侭ならず、無意味に宙を掻いていたみぎりの指先に何かが触れた。
亡者がたらされた蜘蛛の糸に縋るかのように、無意識のうちにそれを強く掴む。

「いたっ?」

いきなり髪を引っ張られたことに驚いて、思わず手を離してしまうノエル。
頭を抑えながら取り落としたみぎりを眺めていたが、

「……あっ プロレス、しなきゃ」

聴こえた人間がいたらどんな反応をするだろう。
そんな冗談のような言葉を呟くが、目の前にいる相手は嗚咽とうめきを漏らしながらその巨体を小さく丸めて蹲っているだけ。
誰の目にも、ノエルにすら試合を続行できるようには見えない。
しばし考える素振りを見せたノエルは徐にみぎりの巨体を軽々と持ち上げ、スタンスや目標点を確認する。

「……おしまいにするの……えい」

“ズズゥ…ッン!!!”
“バギィ…ィィ…ィ…”

突き刺さんばかりの勢いでスプラッシュマウンテン。
叩き付けられたみぎりの身体とそれを受け止めたリング、双方の悲鳴のように二つの音が会場に響き渡る。
あまりの威力に声を上げることさえ出来ず、しかし、失神も叶わぬまま衝撃に苛まれるみぎりとその身体を押さえ込むノエル。

「……数えない、の?」

カウントを数える……この場合は試合を止めるべきか……レフリーは先程のSTOで失神していた。
すぐに気付いたものの、これまで経験してきたスパーリングではレフリーでなくても周りの誰かが3数える間相手を押さえていればよかった。
試合が終わらないことにしばし困惑していたノエルだが、不意に立ち上がると……

「……じゃあ、もう一回」

小さな呟きだったにもかかわらず、その言葉は滅茶苦茶になったみぎりの意識にはっきりと伝わった。
再びみぎりの身体を持ち上げるノエル。
異常を察知して飛び出すスタッフと騒ぎ始める観客。
みぎりの思考がようやく状況を理解し、恐怖が悲鳴となって迸ろうとした瞬間……

「……えい」
213 :名無しさん:2009/02/26(木) 17:31:26
5

結局、ノエルが三度みぎりを持ち上げたところで飛び込んだスタッフが二人を引き剥がし、そこで試合は終わりを迎えた。
即座に担架が運び込まれ、血に染まり不規則な呼吸と細かな痙攣を繰り返すみぎりを運び出す。
その様子をぼうっと見ていたノエルも先輩レスラー達に裏へと連れて行かれ、会場には言い訳染みたアナウンスが流された。
この有耶無耶な結果に、しかし、観客の誰も不満を漏らすものはいない。
空色のリングに咲いた大輪の朱の花を、ただ無言で見詰めていたから。
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