316 :零vs獅子堂(1):2009/03/20(金) 19:50:49
東京都内の地下深く。
暗がりの中、煌々としたライトに照らされたリングが浮かび上がっている。
リングの上には、2人のレスラー。燃えるような赤とオレンジのコスチュームと赤毛。一方は、黒いワンピース型の水着にレガースを装着した、シャープな雰囲気の長身。

「まさか本当に出てくるとは思わなかったよ、零。……ここがどういうところか、わかってるんだろうね?」

赤毛のレスラーが挑発的な眼差しを黒衣のレスラーに向ける。

「……もちろんだ、よ、レナちゃん」

零と呼ばれたレスラーがポツリと、しかし強い決意を秘めた声で言葉を返す。
その言葉を聞き、普段の彼女しか知らない者にとっては想像もできないふてぶてしい笑みを浮かべる獅子堂レナ。

「それならいい。本気でやらせてもらうよ。何があっても……」

「恨みっこなし、だよ、ね」

そこまで言うと、両者共に視線を切り、踵を返して自コーナーに戻っていった。





都内に本拠を構えるとある女子プロレス団体。
設立から8年を数えるこの団体は、試合内容には定評があったものの、会場施設や演出、その他営業で効果的な方策を見出せず、一時は経営困難に陥るほどの業績不振にあえ

いでいた。
状況が激変したのは2年ほど前。引責辞任した先代社長の後を受ける形で在野から現在の社長を招き入れたところから始まった。
けれん味に溢れた会場演出。華やかかつメリハリの利いたライティング。デザイン性を強く打ち出した宣伝広告。
徹底したイメージ戦略が元々ハイレベルだった試合内容に見事に合致し、経営状況は一気に好転。『今一番勢いのある団体』と評されるまでになった。
しかしその一方で、新人レスラーの青田買いや過激な引き抜き工作など強引ともとれる手法が疑問視され始めた。
そして業界内でまことしやかにささやかれ始めた噂・・・・・・他団体レスラーの闇討ちと会員制地下プロレスによる大規模賭博。
実際、この団体が業績を伸ばし始めたのと軌を一にして対立団体の有力若手や海外提携レスラーの故障が相次いでおり、また団体の好況だけでは説明のつかない大きな仕掛け

が次々と打たれていた。
その実態を調査し、状況次第では内部崩壊を引き起こすべく、この団体に送り込まれた刺客レスラー・メロディ小鳩は、団体の金の流れを押さえると、それを辿りついに地下

プロレスの所在を突き止めるに到った。
しかしその動きを察知していた社長サイドの画策により、小鳩は盟友であり親友でもある寿零との潰し合いを強要される。
ギブアップも試合放棄も許されない、どちらかが戦闘不能になるまで終わらない非情のレギュレーション。
地下プロレスの会員で固めた観客、社長の息のかかったレフェリーに逃げ道を塞がれ、ぶつからざるを得ない2人。

……生き残ったのは零だった。
小鳩はそのまま捕らえられ、ダメージの癒える暇も与えられぬまま日夜地下プロレスに生贄として供されている。
彼女の身体で満足に動く箇所は最早なく、歩くだけで全身に痛みが走る。しかしそんなことは関係なく、いやだからこそ、日を全く置かずにマッチメイクされ続けている。

無明の闇の中もがき続ける親友の姿に耐えられなくなった零は、社長に面会し、小鳩を解放してほしいと頭を下げた。
いちレスラーにすぎない零の主張は、しかし条件付きとはいえ割とすんなりと受け入れられた。
社長の出した条件……地下プロレスにエントリーし、その試合に勝てば小鳩を解放するかわりに、負ければ零自身も地下プロレスに継続参戦することを飲んだ零。
そして、そこから異例の早さで零のエントリーと、獅子堂レナとの同期生対決が地下プロレスの会員にアナウンスされた。

317 :零vs獅子堂(2):2009/03/20(金) 19:51:53
「シィィィィィィィィッッ!!」

ゴングが鳴ると同時につっかかっていく零。
獅子堂が体勢を整える暇もなく、必倒の打撃が雨霰と降り注ぐ。

この地下プロレスは、プロレスと名はついているものの、実際はハイレベルな潰し合いとでも言った方が適切である。
プロレス特有の『魅せる』ムーブや試合展開の構築性といった要素は希薄、というよりは寧ろ積極的に切り捨て、更にはルールもいわゆるMMAのそれよりも自由度が高い、つ

まり実質反則がない。勝負論に先鋭化していった最果ての姿といって良い。
そのような闘いにおける理想は、封殺。相手に力を出す暇を与えず一方的に押し切ること。
しかしそれが出来るレスラーというのは少ない。機先を制する出足の鋭さ、反撃のタイミングすら与えない密度の濃い攻撃。傑出した攻撃スキルが要求されるのだ。
零はそれらの要素を全て備えた、まさに地下プロレス向きの逸材と言えるレスラーであった。

恐ろしいまでの回転のパンチにローやミドルの蹴りを織り交ぜた怒涛のラッシュが獅子堂をコーナーに押し込んでいく。
ガッチリとガードを固める獅子堂。顎を引き、頭をやや前。急所をしっかりと隠しており、なかなか打つところがない。しかし、零の打撃は猛烈なラッシュにあってもガード

の僅かな隙間を縫い的確にヒットを重ねる。
ジリ貧の獅子堂だが、かといってガードを解き手を出すわけにもいかない。ガードを解いた瞬間、蜂の巣にされるのは目に見えている。
このまま、押し切る。万が一も起こさぬ心づもりで、零はその拳を振るっていった。

異変は唐突に訪れた。
両腕が鉛のように思い。気だるさが全身に広がり、息苦しさに顔が上ずる。
燠のくすぶるような嫌な熱がじくじくと身体を苛む。異常な発汗。
打撃の回転が見る見るうちに鈍っていく。

(どういうこと、なの……?)

わが身を襲う異常に戸惑いながら、それでも手を出し続ける零。
それは、先程までの確固たる自信に裏打ちされたものではなく、手を休めたら二度とエンジンがかからなくなるのではないかという不安によるものであった。しかし。

『ガツッッ!』

不意に零の視界がぶれた。突然の衝撃に、とうとうその手を止めてしまう零。
左の頬がじんじんする。目の前には、いつの間にかガードを解き、拳を引いている獅子堂の姿。

(カ、カウンター…………もらった、の……?)

まさかの一撃に愕然とする。カウンターをもらったことにではない。獅子堂の動きに気付かなかったことが、零の平静を掻き乱す。

「どうした、零。顔色が悪いぞ!」

獅子堂はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、鋭いステップインから左右のボディフックを繰り出す。
先程のカウンターが見えなかったことで、零はとにかく獅子堂の攻撃を見極めようと必死で意識を切り替える。
左右のボディは囮、本命は顔面。ガードを下げずに腹筋に力を込める。
獅子堂の拳が腹を軽打する。今だ続く倦怠感のせいか、軽打にもかかわらず内に響くような感覚を覚え、いっそう自らの不調を自覚させられる。
が、ともかく次は間違いなく上に来るはず。そこにフックをかぶせ、カウンターを取り返してやる。リーチとスピードを考えれば、先に届くはずだ。
獅子堂の動きに集中する零。思惑通り、獅子堂の右ストレートが顔面目掛けて飛んでくる。
これにフックをかぶせて、カウンターを―――――――――

318 :零vs獅子堂(3):2009/03/20(金) 19:52:58
『ゴッ!』

零のフックは、獅子堂に届くことはなかった。
獅子堂の右拳が零の左フックより早く顔面を跳ね上げる。

(あ、あれ……? どうして…………?)

狙い通りだった。完璧なタイミングだった。なのに、何で自分が顔を仰け反らせているのか。
考えをめぐらせている暇はなかった。獅子堂の拳が、矢継ぎ早に放たれる。
落ち着け落ち着けと自らに言い聞かせながら、体勢を立て直す零。
攻撃は間違いなく見えている。ここはしっかりと捌いて流れを切ろうと、腕を巧みに使ったパリングを試みる。
しかし零の腕の間を、硬い拳が次々とすり抜けてゆく。

「が、かっ、うっ、くふぅっ………………!」

レンガに打ち据えられるような痛みが零の身体を貫く。
頬、胸、肋骨。打たれた箇所がずくずくと熱を帯びている。

おかしい、おかしい、おかしい。あまりにも一方的すぎる。見えているはずの打撃をここまでもらうというのは考えられない。
何より、この身体の重さは何なのだ? まるで、自分の意識から身体だけが取り残されているような……。

「どうだ、動かないだろう? ……あれだけの潰し合いの後だからな。プロレスと並行してあんなことすれば、回復は格段に遅くなる。見誤ったな、零」

「……!? な、何……?」

どうだと言わんばかりの表情の獅子堂。動揺する零に、さらに予想外の言葉をかける。

「お前に攻めさせて、ガタが来るのを待っていたのさ。ちょっとやばかったけど、上手くいった……社長のアドバイスどおりだ」

「え……しゃ、社長の、アドバイス、って…………!?」

「ぜーんぶ社長が話してくれたんだ。お前、小鳩とグルだったんだな」

「……!!? グルだなんて、私はただ、小鳩ちゃんを……」

この瞬間、零は全てを理解した。
あの小鳩との壮絶な潰し合いにおける、執拗に試合を続行させるレフェリング。
それからわずか2週間にも満たないインターバルでの地下プロレス戦。
獅子堂の徹底したガード戦術。
蓄積されたダメージが噴き出るように、全てが計算されていたのだ。
そして、何よりも重要なこと。
地下プロレスの話がまとまってから本決定までが迅速すぎやしなかったか。
思えば、小鳩と自分が潰し合いを強要させられたのも、自分が小鳩をよく知っていたというだけではなく、団体に不満を持っていたが故……?
どうやら獅子堂にあれこれと吹き込み煽ったらしいが、それも全て自分を潰すためと考えれば……。
嵌められた……! 最悪の事実に気付き、歯噛みする零。

319 :零vs獅子堂(4):2009/03/20(金) 19:54:35
「社長から言われてるんだ。遠慮なく潰していいって。……覚悟しろ、裏切り者!」

大声で一喝すると、外から大きく回すように右脚を振り上げる獅子堂。ハイキックの軌道を見て取った零は、とっさにガードを上げる。
しかし獅子堂の右脚は膝から先がまるで別の生き物のように回転し、零のがら空きの右脇腹に吸い込まれる。

「がふっ……くはぁ…………!!」

内臓を抉り取られるような感覚。異物を挟み込まれたような、ゴロリとした痛みの塊が残される。
疲弊して動かぬ肉体に、更に積み重ねられていくダメージ。
耐え難い苦しみに、身体を折り曲げ後退する零。
それでも獅子堂は容赦しない。追い足を使って零との間合いを詰めていく。

(手、手を出さなくちゃ…………!)

このまま押し込まれるわけにはいかない。零は崩れそうな身体にムチを打ち、前蹴りで突き放しにかかる。

「遅いッッ!!」

しかし、当たらない。零を知る者からすれば信じられないほどスローな前蹴りを悠々とかわされると、そのままフックの連打を叩き込まれる。
脳がシェイクされ、脚がガクガクと震える。ダウンしてもおかしくないほど効かされてしまったことがはっきりとわかる。

(動かない…………身体が、動かない、よ…………!!)

パワー、スピード、タフネス。全てを奪われた零に、『殺戮兵器』と呼ばれ恐れられた面影は消え失せていた。

「さあ、制裁の時だ。キッチリ地獄に送ってやるっ!!」

ボロボロの零の腹目掛け、獅子堂の足先を突き立てた前蹴りが襲い掛かる。
必死にガードを下げる零。しかし、鉛のような身体には零の意思が思うように伝わらない。
腹をかばおうとする零の両腕より早く、獅子堂の脚が長槍と化し零の身体の中心を一直線に刺し貫く。

「がふうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!」

ほとばしる苦悶の声。本当に貫通してしまったのではないかと思えるような激痛に、零はドウとリングに倒れ伏し、そのまま腹を抱えて小さくうずくまる。

「ふぐぅっ、うぐぅぅぅぅぅぅ…………げぇぇぇぇぇぇぇ……」

耳障りな声を上げ、顔をくしゃくしゃに歪めながら涎をだらだらと垂れ流す零。
しかし獅子堂は止まらない。倒れたままの零の髪を引っ掴むと、無理矢理引き起こして首相撲に捕らえる。
そして、ふるふると震える零の腹に、2度3度と追撃の膝を叩き込んでゆく。

320 :零vs獅子堂(5):2009/03/20(金) 19:55:51
「がぶっ、ぐぶぅっ、ぐっ……ぐぼぉぉ…………!!」

限界を超えたダメージに、硬く縮こまり軋みを上げる内臓。更に呼吸もままならず、窒息の苦しみが嘔吐感とないまぜになって津波のように押し寄せる。

「げうふ、おえええぇぇぇぇ……ぇぇぇぇえええぇええぇ…………」

前のめりに倒れる零。にやり、と笑う獅子堂の笑顔が次の瞬間驚きの顔に変わる。
零は腕を獅子堂の背中に回し、頭を鳩尾辺りにつけた格好で抱きつき、ダウンを拒絶してみせる。

「ぜぇ……ぜぇ……はひぃ…………ひぃ……」

口を金魚のように大きく開けて、荒い呼吸を繰り返す姿は無様で、ここから何か出来るとは思えない。
実際、零自身何かしようと思ったわけでも無かったが、ただこのままダウンするのだけはイヤだった。

「クッ……このぉ……離れろっ!!」

無防備な背中に肘を落としていく獅子堂。
身体の芯を揺さぶられるような鈍い衝撃に、零は目を白黒させる。内臓を滅多刺しにされたような錯覚を覚え、げーげーと嘔吐の声を漏らし続ける。
しかし倒れない、倒れたくない。ここで倒れたらもう起き上がれない気がする。
零は腕のクラッチに力を込め、ただ耐える。

「いい加減に……しろぉっ!!」

業を煮やした獅子堂は、零の頭に両手を差込み強引に隙間を作ると、顔面に膝を突き立てる。

「うぶぅぅぅぅぅっっ…………!!」

零の頭が大きく跳ね上がり、汗と涎が飛沫となってリングに降り注ぐ。
脳を縦に揺さぶられ、視界が霞む。全身がビリビリと痺れ、クラッチが外れ上体が柳のようにゆっくりと仰け反る。ダウンか。

涎を依然としてだらしなく垂れ流しながらも、零はしかし、今度も何とか踏みとどまって見せた。
最早、零に勝算などない。そんなことを考える余裕もない。
悲鳴を上げる内臓はもうどこが痛いのかわからないし、頭だってガンガンする。呼吸もロクに出来ない自分はまるで打ち揚げられたマグロのようにさえ思える。
しかし、苦しいからといって諦めるわけにはいかなかった。
自分のせいで死地に追いやられた小鳩をなんとしても助け出す。その思いだけが零の背中を支えていた。

「うぅぅぅおおおおおおおおぉぉぉおおぉおぉっっ!!」

僅かに残った力を右拳に込め、身体ごと投げ出すようなロングフックを放つ。フォームや打撃セオリーなど構っていられない、ただ気持ちだけを乗せた渾身の一撃は、それで

もほんの一瞬、今の零からは考えられないほどの伸びと勢いを取り戻していた。

321 :零vs獅子堂(6):2009/03/20(金) 19:57:01
『ガシュッッッッッ!!』

瞬間、世界が暗転した。

鈍い音が響き、宙に紅い血の華が咲く。
ドサリと、人の身体がリングに突っ伏す音。
そこには、少しだけ腰を浮かせてうつ伏せに倒れる零の姿があった。
交錯する刹那、獅子堂が放ったカウンターの右ストレートが、零の顎を打ち抜いたのだ。
壊れてしまった肉体を、小鳩への思いだけで繋ぎ止めていた零。
しかしその強い精神力も、身体から切り離されてしまえば何も働きかけることは出来ない。
硬直した身体をピクピクと痙攣させる零。丸く見開いた目はガラス玉のように表情を失っている。
伏せた顔の辺りからじんわりと血溜りが広がってゆく。どうやら顎が割れたらしい。半開きの口からとめどなく血が流れ落ちる。
しかし、零がその痛みを感じることはもう無かった。



鮮烈な決着に沸く会場。一夜にして大金を手にした者たちの歓声と、賭け券を紙屑にされた者たちの怒号に包まれたリングの上で、今だ目覚めぬ零を獅子堂は冷たく見下ろす



「これが、裏切り者の末路だ。これから先も、お前はずーっとここで無様な姿を晒し続けるんだ、あいつみたいに」

そう吐き捨てると、獅子堂はくるりと背を向けてリングを後にする。
出口に向かう獅子堂の横をすれ違う黒服の男たち。彼らにその身体を拘束されると、零はそのまま、この闇の舞台の更に底へと連れ去られていった。
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