330 :311:2009/03/21(土) 19:04:55

「……気に入らない」

そう呟く桜井千里の視線の先には、薄ら笑いを浮かべてこちらを見る今日の対戦相手、栗浜亜魅がいた。
闘うことに真摯な桜井にしては珍しいことに、彼女の表情にははっきりと嫌悪感が浮かんでいる。
事の起はほんの数分前、この日のメインでベルト防衛戦を行うはずだった桜井に観客のどよめく声が聴こえて来た。
会場の大型ディスプレイに目を向けると、そこにはスモークの中ゆらりと姿を現した対戦相手が映っている。
しかし、彼女のリングコスチュームは赤黒く汚れ、ぶらぶらと揺れる両腕が肩と繋がっていない事は明らか、髪から僅かに覗く顔は死者のようだった。
慌てて駆け付けると、薄れたスモークの中にもう一人、見覚えの無い少女…栗浜が立っていた。

「おや? チャンピオン自らお迎え戴けるとは」
「……アナタは?」
「わたしは……付き人さん?」

そう言って自分の隣に立つ選手を突き飛ばす。
桜井の付き人がそれを受け止めるべく腕を伸ばした…瞬間、獣の様な勢いで飛び掛るとその腕を掴み、身体全体で捻り上げる。

“ブ…ヂィ…ィィ…”
「ぎゃあっ!!」

悲鳴と共に肩を抑えて蹲る付き人を邪魔とばかりに蹴り飛ばし、笑顔で桜井に向き直る。

「ご覧の通りの者です」
「……殴りこみ、と言うことですか。随分と下品な挑戦をしてくれますね」
「怖気付きました?」
「リングに上がりなさいっ!!」

怒りも顕にそう言い放つ桜井。
愛想が良い方ではないが、これまで苦楽を共にしてきた団体のメンバーに愛着が無いわけではない。
まして、闘う者としての筋も通さず身勝手な振る舞いや発言をする栗浜の態度は許しがたいものだった。
言い訳の効かないリングの上で、自身が汚した闘いを以って制裁を与えなければ収まらない。
それは会場の観客たちも同じ気持ちだろう、リングに上がった栗浜に対して叩き付けるようなブーイング浴びせている。
もっとも、当の本人はコーナーにも垂れながら微睡むような、しかし、間違いようも無く嘲りの篭った表情を浮かべているが。
こうした殺伐とした空気の中、桜井vs栗浜の試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。

「フフッ」

ゴングと同時に飛び込んでくる栗浜。
小柄な体格を活かして素早く相手の間合いに入り込み、エグイ関節技を仕掛けるというファイトスタイル。
レスラーとしては小柄すぎるその体格ではある意味当然の選択かもしれないが、先程の乱闘で見た通りの行動に狙い済ました上段蹴りを放つ桜井。
試合として成立するかなどとは考えない、これで全て終わらせると言う必殺の意思が込められた一撃が栗浜の側頭部を撃ち抜く。

「っく!?」

……よりも速く、栗浜の勢いを乗せた蹴りが桜井の身体を揺るがす。
踏み込む姿勢から身体を撓らせて攻撃のモーションを作り、相手からの迎撃を逆に狙い撃ったのだ。
予想外の動きに面食らったものの、咄嗟に腕を上げてガードする桜井に対し、さらに拳を打ち込みながら勢いそのまま、さらに間合いを詰める栗浜。
それを嫌った桜井は肘を打ち下ろして身体を引かせ、同時に腕を取られないよう身を捻り突き離すように回し蹴り!!
大きく跳び退って距離を取り、追ってきた蹴りを受け止めると、その引きに合わせて再度踏み込み鞭打つような手刀を放つ栗浜。
それを片手で往なした桜井は、空かさずショートフックから回し蹴りのコンビネーションで反撃に移る。
栗浜は横っ飛びでそれから逃れると、そのまま飛び込み前転の要領で距離を取りつつ起き上がる。
開始早々に展開された激しい打撃の攻防は、それまで怒号を上げていた観客を沈黙させるのに十分だった。

331 :311:2009/03/21(土) 19:06:23

「……掴んでくる。と、思っていたのですが」
「そんなに怯えないでください。今日はご主人様から賜った新しい魔力を披露するのが目的ですから」

そう言って、試合の最中だと言うことを忘れたかのように恍惚とした表情を浮かべる栗浜。
その“ご主人様”とやらを思い浮かべているのか、闘っている自分さえ見ていないだろうその態度は桜井をより苛立たせる。

「つまり、身に付けた打撃の技を見せびらかす為にこんな事をした上、そんな手抜きのまま闘って私に勝つと?」
「修練によって身に付け、実績に裏打ちされた技術が簡単に叩き潰される。ご主人様の偉大さを知らしめる為にあなたは実に都合がいい、手頃な生贄なんですよ」

更に静まっている観客たちを見回しながら高々に叫ぶ。

「さあ、黙るのはまだ早いですよ!! 抗うの姿に祈りを! 苦悶の姿に怒りを! 敗北する姿に絶望を謳って贄たる者の屍と共にこの神聖なる儀式を彩りなさい!!」

再び怒号と罵声に包まれる会場を満足そうに見渡す栗浜。

「……バカにして……手加減はしません。そんな付け焼刃、すぐに打ち砕いてあげます!!」
「手加減はしてあげます。ご主人様の偉大さを知らしめる為にも、簡単に終わっては困りますから」
「上等っ!!」

もはや問答無用とばかりに抑え切れない怒りを叫びに乗せ、桜井は猛然と襲い掛かる。

「クスッ」

居合いの如き鋭さで迫る上段蹴りをギリギリでタイミングで掻い潜り、それをタメに拳を打ち上げようとする栗浜。
そこに蹴りを振り抜いた勢いで身体を反転させた桜井が、カウンター気味の裏拳を放つ。
咄嗟にガードした栗浜の腕に予想外の軽い衝撃が走った次の瞬間、

「ハッ!!」

受け止められた畳むと同時にリングを軋ませる程強く踏み込んで、ガードの空いた正面から体重の全てを乗せた肘を放つ。
栗浜の身体が後方に大きく吹き飛び……軽やかに着地した。

(フェイントからの攻撃にも直ぐに反応してきますか……)

最初の蹴りが回避された時、その反応速度に驚きつつもこの攻撃を誘いに確実に当てる構成を瞬時に行った。
蹴り終りを大きく見せつつシフトウェイトし、予期した通りに反撃に来た栗浜の軌道上に置いておくような裏拳。
わざとガードさせることで逆に隙を作り必殺の肘を打ち込む。
有効打を与えることはできなかったものの、目論見の通りに事が運んだことで、栗浜のファイトスタイルの再分析を完了した。
なるほど、大きな口を叩くだけあって栗浜の打撃はなかなかのものだ。
こちらの隙に即応することでリーチの短さを補いつつ、回転の速さと狙いの鋭さで軽いながらもダメージを重ねてくる。
また、挑発的で奇矯な言動とは裏腹の基本に忠実、それ故に安定した防御でクリーンヒットを避け、堪えきれないと判断すれば躊躇無く射程内から逃げる。
天性のものだろう柔軟性と機を読む勘が攻守に活かされている。
仮に先程の攻防で、更に追撃を仕掛けたとしても、着地した脚が即座に跳ね上がり、こちらに襲い掛かってきただろう。
これに栗浜が得意とする関節技が加われば、さらに面倒になるに違いない。

(……しかし、これだけで私を倒すことはできない!)

いかに上手いと言ってもフィジカルでもテクニックでも自分の方が優れている。
手数の多さと打点を集中させることで喰い付いてきてはいるが、自分のガードを貫ける程ではなく、現に攻撃を受け止めた四肢は大してダメージを訴えてはいない。
逆に自分の打撃はガードの上からでも確実に浸透しているはずだ。
何よりあの運動量の多さでは、すぐにスタミナも尽きるだろう。
あくまで闘いの際に選択肢のひとつであり、特訓を施したのであろう“ご主人様”なる人物もそれを想定していたはずだ。
得意としている関節技と組み合わされば厄介かもしれないが、先程の裏拳を見逃したことから、関節技を使わないという言葉の裏も一応は取れている。
このまま打ち合いを続けていれば、先に力尽きるのは向こうの方だ。
桜井のみならず、会場の全員がそう考えた。

332 :311:2009/03/21(土) 19:08:10

「ハッ! ヤァ!!」

多彩なコンビネーションで次々と蹴りを繰り出す桜井とそれを受け止め、あるいは避けつつ散発的に反撃する栗浜。
試合開始時から延々と繰り返される光景は、時間の経過と共に徐々にその様相を変えていった。
大袈裟なほど大きかった栗浜の回避動作が明らかに小さくなり、防御こそ間に合ってはいるものの、打撃が身体にヒットする機会も増している。

「どうしました? 随分お疲れのようですが」
「……余計な、お世話です!!」

しかし、余裕を失っているのは桜井だった。
息を切らせ始めた栗浜のスタミナを更に削るように攻め手を構成し、逃れる術を完全に奪ったところで必殺の一撃を見舞う。
途中までは目論見通りに運んでいたにも拘らず、詰めに入る前に自分の動きが鈍りだしたのだ。
スタミナが切れたわけでも、ダメージが溜まっているわけでもない。
呼吸さえ乱れていないにも拘らず、先程から身体が思い通りに動かない。
キレを失った攻撃は最小限の動きで回避され、当たったところで防御の上からでは有効なダメージは望めないだろう。
実際、今も受けに回っている栗浜は先程までより落ち着いた様子だ。
確かに違和感を感じられるものの、その正体が何なのかわからない桜井に対し、余裕の表情で話しかける栗浜。

「枷で繋がれた気分は如何です?」
「……枷?」
「言ったはずです。ご主人様の偉大さを知らしめると。あなたは見えない魔力の枷に囚われているんですよ」
「何をバカな……冗談に付き合う気はありません!」

何をされたのかはわからないが、これが向こうの意図するところなのは間違いないようだ。
相手の策には待った以上、もはや自分の方が有利だとは言えない。
寧ろ自分を策に嵌めた事で余裕を得た栗浜との打撃戦を続ければ不利なのはこちらだろう。

(……それなら!)

今までより立ち幅を広げ身体を深く、片腕は突き付ける様に伸ばしつつ、逆の腕を隠すように半身に構える。
これまで以上に攻撃的なその構えに、しかし、それを向けられた栗浜の表情はなお笑顔のままだった。

「口先と違って態度は素直ですね。暗黒魔術の力を讃える気になりましたか?」

挑発にも無言のまま、ただ張り詰めるような空気を纏ったまま相手を見据える桜井。。

「……ふぅ、愛想がありませんねぇ。そんな顔をしなくても付き合ってあげますよ? ……精々可愛い声で鳴いてください」

そう言って栗浜は、これまでとは違うゆったりとした動きで桜井の間合いに踏み込んだ。

再開は驚くほど静かに始まった。
間合いが重なった瞬間、お互い無言のまま相手を攻撃し始めた。
猛スピードで打ち込まれる拳を受け止め、引き手に合わせ更に近づこうとすれば、迎え撃つように突き上げるような膝。
膝上に腕を振り下ろして動きを止めると、そこから伸び上がるように手刀を放つ。
それを紙一重で避けると同時に側面から薙ぎ倒さん勢いで蹴りが撃ち込まれる。
跳ね上がって来た脚を払い除ける様に拳を叩き付け、逆に蹴りを返す。
打つ、受ける、突く、止める、撃つ、避ける…幾度と無く拳と脚が交錯し、無数の打撃が互いに向かって襲い掛かる。
しかし、その均衡はすぐに崩れ始めた。
桜井の動きが目に見えて鈍り、それによって栗浜の打撃が徐々に桜井の身体を捉え出したのだ。
それでも動きを止めず…止まってしまったら、もう動くことはできないと分かっているから…に打ち合う桜井。
その姿に観客からの悲鳴と祈るような声援が響き渡る。

333 :311:2009/03/21(土) 19:16:41

「っがぁ!!」

しかし、願いは届かずついに苦悶の声を漏らし、動きが止まってしまう。
反撃が止んだことで、いよいよ栗浜の攻め…最早責めと言うべきか…が勢いを増す。
抗おうにも動かない桜井の身体を脇腹、首筋、腹、脚、腕、胸、腿、膝…何処を狙うかなどとは考え無い、まさに滅多打ち。

「っ あ゛ぁ !! っ え゛ぇ゛!! っ ぎ ぃ !! っう゛ぅ゛!!」

震える腕で必死にガードを固めようとする桜井を嬲るように、その様を会場中に見せ付けるようにその身体に痕を刻み続ける。
この鞭打ち刑によって無残な姿となった桜井の前で見せ付けるように足を上げ…それを爪先目掛け踏み下ろし、同時に逆の脚に斬り付けるような手刀を撃ち込む。
身体を支えようとする意思とは裏腹に力が入らず、座り込むように崩れ落ちようとする、その顔面に凄まじい勢いで膝が叩き込まれる。
シャイニングウィザードの一閃によって天井を仰がされた桜井を悠然と見下ろし、その顔面を踏み躙る栗浜。
期待とは真逆の光景を前に観客から暗澹たる思いを込めた声が漏れる。

「これでご理解頂けましたか?」

荒い息をつき、言葉を返すことのできない桜井はそれでも相手を睨み付ける事で抵抗の意思を示す。
それを見た栗浜は投げ出された片足を掴むとその膝に掌を乗せドアノブのように軽く捻る。

「ひ ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

撫でると言ってもいいようなその動きからは想像も付かない鋭い痛みが混乱する桜井の意識を貫いた。

「クスクスッ 良いお返事です」

自らの足の下で痛みにのたうち悲鳴を上げる桜井の様子を栗浜は満足そうに見下ろしていた。
栗浜の言う魔術の正体は、関節部分に無自覚な緊張状態を作り出すことだった。
桜井自身が考えた通り、余程無防備に攻撃を受けない限り、栗浜の打撃で致命的なダメージを受けることは無い。
だからこそ特定部位への攻撃を繰り返し、筋肉、靭帯、腱に刺激を与えることで本人の意識と関係なく関節を絞め、身体の動きを制限すした。
同時に長い緊張状態は確実にその部位を疲労させ、打撃を受ける際に感じられる衝撃と、蓄積された負荷の差が判断を狂わせる。
栗浜のご主人様……団体の社長がレスラーとしての素質に劣る彼女の手札を増やす為に所属するコーチ陣と考案した言わば“掴まない関節技”だった。
尤も桜井には、自分が得意とする打撃で完全に打ち負かされたとしか考えられなかっただろう。
その敗北感と屈辱、先程から繰り返される奇妙な言動で混乱する精神を更に追い詰めようとする栗浜。

「おや? どうやらアナタの不甲斐無さに失望したようですね」

踏み付けた頭を転がすようにして無理矢理観客席を向かせると、そこには失意、或いは怒りの表情を浮かべた観客たちの姿があった。

「ほら、お仲間も情けない姿を晒すアナタが不快のようですよ?」

逆側に顔を向けられると、同じ表情でリング状を見詰めるスタッフたち。
普段の桜井ならこの程度のことで動じたりはしない……冷静であれば、この視線が必ずしも自分へ向けられているのでは無いと気が付いただろう。

「大きな口を叩いておいて無様に負けた挙句、最初に張った意地も通せず泣き喚く……この視線も醜態も今のアナタにはお似合いです」

しかし、次々に浴びせられる言葉は、桜井に考える暇を与えず、敗北を強調し、その意思を挫こうとする。

「この先もずっと失意と侮蔑の視線を向けられることになるでしょうね。そして、その度に今日の事を思い出す。……一生この敗北から逃げられない」
「……っ!! ぃ…やぁ…嫌ぁ!! 嫌ぁ!! 嫌…ぅんん!?」

騒ぎ始めた桜井を踏み付けて黙らせるとその身体を丸め込むように折り畳んでゆく。
明らかに極めに来ている様子に試合前に壊された二人の姿と、たった今撫でられた時に感じた痛みを思い出して恐怖する桜井。

334 :311:2009/03/21(土) 19:25:41

「オマエの役目は終わりだ。……消えろ!!」

その言葉と共に身体の上に覆い被さり……動きを止めた。
観客たちが訝しむ中、ゆっくりと立ち上がった栗浜の下から、大股を広げた姿勢で恐怖のあまり失神した桜井の姿が現れた。
試合前までの王者としての威厳と闘士としての誇り満ちていた桜井とはあまりにも懸け離れた無様な姿。
侮蔑を込めた視線で見下ろしながら尻を蹴飛ばす栗浜。

“ビクッ プシャァァ…”

衝撃で弛緩したのか股間から尿が漏れ出し、桜井の顔を濡らしていく。
栗浜は呆れたと大袈裟な仕草でして見せると、興味を失ったとばかりにリングを降りてしまった。
ゴングが打ち鳴らされ、タオルを持ったスタッフが飛び込んで行く。
放送掻き消す程の怒号が響き渡る中、花道を引き上げようとした栗浜の目に、この試合賭けられていたベルトが飛び込んだ。
興味なさそうにそれを眺めていた栗浜だったが、不意にそれをひったくると、侮蔑の笑みを浮かべて後始末で騒ぎになっているリングへ向けて投げ捨てる。
それは会場内の注目を集めるように大きな弧を描き、運び出されようとしていた桜井の尻に当たって尿溜りに落ちた。
最早何を言っているのか判らない……言葉にもなっていない叫びに包まれる会場を後にする栗浜。

一刻も早く、愛するご主人様にこの事を伝えたい。
きっと褒めてくれるだろう。
そうしたらうんと甘えるのだ。
その胸に抱き付いて、頭を撫でて貰って……一緒にソフトクリームを食べるのも良い。
幸せな夢想に耽る栗浜は、醜態を晒した桜井の事など憶えてもいなかった。
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