735名無しさん:2009/06/27(土) 11:11:49
電波が囁いたので初めて投下します。1は前置きなので読み飛ばし可です。

1.
『腰巾着に興味なし。狙うはサンダー龍子のみ』
挑発的な言葉で飾られた紙面を乱暴に閉じ、丸めてゴミ箱に投げ捨てる。

「……あの餓鬼、調子に乗りやがって」

腹の底から搾り出すように不満を吐き出したが、治まりがつかず拳を硬く握りしめた。

「まあまあ、そうカッカしないで。はい、リンゴ。あ〜ん」

邪気のない顔で『あ〜ん』を強要してくるタッグパートナーに対して、サンダー龍子は仕方なく口を開け、ウサギの形にカットされたリンゴを受け入れる。
季節が外れているせいか強めの酸味が口の中に広がる。

「もうひとつどう?」
「いや、もういい。それより、あんな記事書かれてどうも思わないのか?」

龍子がゴミ箱に視線を動かすと、リンゴの予想外の酸味に顔をしかめていた石川涼美は曖昧な笑顔を作った。
龍子が憤激した雑誌の記事の内容を要約するとこんな感じである。


今月予定されていた新女とWARSの交流戦に、サンダー龍子が怪我のため出場できなくなったことが分かった。
当初予定されていた武藤めぐみとサンダー龍子のタイトルマッチは、新女側の強い要請によりWARSの石川涼美が代打出場することに決まった。
なお、この試合で石川涼美が負けた場合、WARSヘビー級ベルトが流れることになり、WARS経営陣は分の悪い賭けに出たといえるだろう。


以上のような内容の記事と、対戦する予定だった武藤めぐみの傲慢な態度が加わり、龍子はかなり頭にきていた。
なにより、これだけ馬鹿にされてもニコニコ笑顔を崩さないパートナーに煮え切らなさを感じていた。

「めぐみちゃんはまだ若いから。うん、龍子だって昔は結構威勢の良い台詞言ってたでしょう」
「それは……そうかもしれないけど」
「でも、出過ぎた杭を打ち直してあげるのも先輩レスラーの役目かなって思わないでもない……かな」
「他団体の人間が考えることじゃないと思うよ」
「でも、新女の人って自分が強くなることしか考えてない人が多いでしょ。危なっかしくて」

そう言われてみれば、龍子は何人かの顔を思い浮かべる。
マイティ祐希子に市ヶ谷麗華、南利美。まあ、確かにそんな感じだ。

(あたしも他人のこといえないよ)

そうプロレスラーなんて職業につく人間は結局は自分が一番なのだ。
誰よりも強く、華麗に、格好良く。目標は違っても目指すところは頂上なのだ。

「というわけで〜、お姉さん役やってきますぅ。龍子はこのベットで大人しくお留守番しててくださいね」
「餓鬼扱いされるような年じゃないよ」
「レスラーなんてみんな子供ですよ〜」
「そうだな、あたしもおまえも。なあ、久しぶりに本気で殴り合ってみるか? 本気を出せるのは餓鬼の特権だからね」

龍子の放つ空気が変わる。
リングの上で幾人もの猛者を喰らってきた野獣の放つソレだ。しかし、石川は臆することもなくその空気を受け入れた。
表情こそいつも通りのニコニコ顔だが、トレーニングウェアの下ではわずかに筋肉が怒張し、意識と肉体が戦闘態勢に入っているのが分かる。

「そうやって、すぐ乗せようとするんだから」
「お楽しみがあったほうが試合に気合が入るだろ。もし、ベルト流失させたらこの話はナシだよ。それどころじゃなくなる」
「わかってますよ〜。そろそろ練習の時間ですから帰りますぅ」

パートナーが病室を去った後、龍子は満足げに笑った。
やはり、自分のパートナーは石川涼美以外には務まらないだろう。それを確認できたことが嬉しかった。
リングの上でどんな死闘を繰り広げるか、骨を砕きあって肉を潰し合う。
想像するだけで果てそうになるほど甘美なドラッグに酔いしれ、いつしか武藤めぐみのことなどきれいさっぱり忘れていた。

736名無しさん:2009/06/27(土) 11:12:56
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前置きが長くなりました。続きです

2.
そして、武藤めぐみと石川涼美のタイトルマッチがゴングによって幕を開けた。

武藤は素早いステップワークと鋭い打撃を駆使し、石川に組み付かれないように試合を運んでいた。
ステップを巧みに使い、ローキックで相手の足に確実にダメージを蓄積させ、
相手が強引に組み付こうと近づいてきたときは前蹴りで距離をつくり、回転の速い左右のミドルキックで相手の動きを封じ込める。
そうやって、相手のパワーを少しずつ削って確実に相手の攻撃力を殺してから、飛び技や投げ技の大技で勝負を決める。
決して体格的に恵まれているわけではない武藤めぐみが、大柄の選手達と渡り合うために取り入れた戦術。
抑えるところは抑え魅せるところは魅せるファイトスタイルである。

(そう、わたしはこれで来島さんや祐希子さんとも渡り合ってきたの。いまさら、石川さん程度に)

策もなく強引に近づいてきた相手の太腿の付け根に前蹴りを蹴り込み初動を止め、鋭いミドルを放つ。
思わずレフェリーが顔をしかめるほどの肉を打つ音がリングに響く。
これまで放ったミドルは全てガードの上からだが、それでも効果は出始めていた。
石川の両腕は赤く腫れ上がっていたが、それでも石川の表情が歪められることはない。

(その余裕顔いつまで続けてられるかしら!)

ミドルを防ぐためにガードは下げられており、顔面がガラ空きになっていた。
ワン・ツーと顔面に掌底を突き入れ、怯んだところにその場飛びで顔に向けてドロップキックを放つ。

「きゃっ」

プロレスには似つかわしくない可愛い悲鳴を上げて膝をつく石川に、蹴りの反動を利用して身軽に着地した武藤は侮蔑の視線を送る。
そんな視線を受けてもなお、笑顔を崩さずに石川はゆっくりと立ち上がった。

「さすがは新女を背負う若きエースさんですねぇ。強くてお姉さん困っちゃいます〜」
「貴女が弱すぎるだけだと思うけど」
「じゃあ、私もそろそろピッチ上げていきますよ」

棘を隠そうともしないめぐみの言葉にも、石川は笑顔で答え、ジリジリと間合いを詰めてくる。
タックルの構えを見せた瞬間、相手の動きを先んじて前蹴りを放つ。初動を止め、右のミドルを赤く腫れ上がった腕に叩き込む。
もう幾度か繰り返した動き。めぐみは相手が間合いに入った瞬間、半ばルーチンワークのように前蹴りを放っていた。それこそが名参謀の狙いだとも知らずに。

バスン。

これまでのミドルとは明らかに感触が違った。

(正面で受けられた)

完全に読まれていた攻撃。否、そう攻撃するように仕向けられていた。
同じような展開が続けられ、めぐみの身体はパブロフの犬のように動きを刷り込まれたのだ。
石川は確実に放たれるであろうミドルに対して半身を捻り、両腕でミドルを受け威力を殺すだけで悠々と反撃のチャンスをものにした。
めぐみは蹴り足を戻して前蹴りで距離をつくろうとするも、もう目の前にあの笑顔が迫っていた。インタビュー中も試合中も変わらぬあの笑顔が。

(組まれる!?)

そう判断しためぐみの頭部を衝撃が襲った。何のことはない、ただ思い切り平手で頬を叩かれたのだ。
だが、場内に響いたのはビンタとは思えない破裂音に近い音。なにより、頭部を襲った揺れが半端ではなかった。
めぐみはもともと首が太いわけでもなく、さらに蹴り足を引いている最中だったため、ビンタの衝撃がダイレクトに脳を襲ったのだ。

737名無しさん:2009/06/27(土) 11:14:02
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3.
「ダメですよ。安易に蹴りなんて出したら、鏡さんあたりなら喜んで掴みにいってましたよ」

追撃はなかった。代わりに放たれたのは指導。まるで一年目の新人に手取り足取り教えるような優しい言葉。
それはめぐみのプライドをひどく傷つけた。

「馬鹿にしてっ!」

霞んだ視界を頭を振ってクリアにし、一気に間合いに詰め込む。
掴みにかかってきた手をクイック式の低空ドロップキックでやり過ごし、素早く立ち上がってワン・ツーと掌底を打ち込む。
顔面に掌底を受けながらも、掴みかかってくる石川の手を思い切り打ち払う。

「もらった!」

ノーガードになった顔面に刀で切り落とすようなハイキック。
決まった。誰もがそう思った。しかし、WARSのNo.2は倒れなかった。コーナーに背中を預けダウンを回避していた。
フラフラになりながらも自分を見据える瞳に、めぐみは猛烈な焦燥感を覚えた。
ここで倒さなければ倒せない、それは強迫観念となって追撃へと駆り立てる。

「ハッ」

跳躍力を生かしたジャンピングニーが石川の顔面に迫る。

「ふふ、甘いですね〜」

しかし、めぐみは見てしまった。普段のお人好しの笑顔が策士の嘲笑へと変わる瞬間を。
そして、硬いものと硬いものが潰し合う嫌な音がリングに響いた。

「ヒァッ」

呻き声を上げたのはめぐみだった。膝に走った激痛に顔をしかめる。
膝に走った激痛の原因、それは石川のヘッドバットだ。膝がクリーンヒットするのを避けるために頭突きで迎撃するという荒業を敢行したのだ。
だが、石川の攻撃はこれだけでは終わらなかった。
ジャンピングニーを高い位置で迎撃され、バランスを崩しためぐみの身体はキャッチされ、自身の跳躍よりさらに高く持ち上げられていた。

「パワーボムいきまーす」

近くなった天井が高速で遠ざかっていく。離れていくライトの輝きにベルトを重ねた瞬間、めぐみの身体を衝撃が襲った。

「グハッ……ァァ」

肺の中の空気が強制的に押し出され、喘ぎながら酸素を求める。

「もう一発いきますよ」
「イ、ィヤ」

遠のいたはずの天井がまた視界に広がり、高度が限界に達しマットに叩きつけられる。
衝撃のあまり平衡感覚が麻痺し、自分がどういう状態にあるのかさえ不明瞭な状態だったが、
視界に広がるライトから自分がマットの上でダウンしているのだと分かった。

「まだ、ネンネしたらだめですよ〜」

無理矢理引き起こされ、コーナーを背に立たされたまま、バシンバシンと2.3回頬を叩かれる。
軽く頬を叩かれるだけで、全身の骨が軋むような痛みが体中を駆け抜ける。連発式のパワーボムはめぐみの身体に深刻なダメージを与えていた。

「もう嫌倒れですか〜? この程度の娘が龍子とタイトルマッチをする予定だったなんてちょっと笑えませんね」

霞む視界に映った石川の表情は笑っていなかった。
ぶつ切りになった思考で理解する。目の前の石川涼美というレスラーは自身が罵倒されようが決して表情を崩しはしなかった。
彼女が怒っていたのはそんな些細なことではなく、パートナーであるサンダー龍子の持つベルトが軽んじられたこと、その一手に尽きていたのだ。

「新女さんのも末期ですね〜。売り出すためとはいえ、この程度の娘を調子付かせて他団体にタイトルマッチを挑ませるなんて」
「……どういう意味よ」
「めぐみちゃんの強さと人気は新女の社長さんがお金を積んで創った虚構だっていう意味ですよ」

目の前に立つレスラーの言葉が少女の心を深く抉った。
そんなはずは無い。私は私の力でここまで……。

「みんな手加減していたんですよ、あなたを伸ばすために。次期エースとして抱えあげるために」
「黙って」
「まだ認められませんか? 無様ですね〜」

738名無しさん:2009/06/27(土) 11:16:59
―――――――――――――――――――
4.
「黙れッ!」

めぐみは絶叫とともに敵に対して殴りかかった。
不思議と身体をスピードレーサーの如く駆け抜けていた痛みは消え、あるのは自身のプロレスを否定されたことへの憤怒ばかりだった。
攻撃の組み立ても何も無い。ただ思いきり、腕を振りかぶりハンマーブローを繰り出す。
戦意を喪失したと思っていためぐみの逆襲にとっさに対処できず、石川をそれをもろにもらってしまう。

「負けない、絶対負けない」

密着した状態からボディにショートフックを打ち、身体がくの字に曲がったところを続けざまにボディへ膝を蹴り込む。
さすがに効いたのか、石川の表情が苦悶に満ちる。
イケる、このままいけば勝てる。その希望がめぐみをラッシュへと駆り立てる。

「まだまだッ」

腹をおさえて前屈みになった石川のこめかみへ肘を打ち落とす。
肘にぬるりとした熱い感触が伝わり、ポタリポタリと肘から伝い落ちた真っ赤な血が青いマットを汚した。

「これで私の勝ちだ」

顔の半分を真っ赤に染め悶絶する石川を無理矢理ロープへ振り、渾身のフライングにールキックを叩き込んだ。
手応えは十分だった。後はフォールをして終わりだと、立ち上がった先でめぐみは信じられないものを見た。
こめかみから滴り落ちる鮮血で首から上を真っ赤に染めた石川涼美がいつもの笑顔で立ち上がっている姿を。

「もう終わりですか〜? じゃあ、つぎは私の番ですよね」
「イヤ、イヤ」

あまりの凄惨な姿に、めぐみはほとんど恐慌状態で背を向けて逃げようとした。

「もう何を考えてるんですか? 対戦相手に背を向けるなんて」

ひどく近いところで声がした。すぐ耳元で囁きかけるような声が鼓膜を打つ。
羽交い絞めにされ、首関節を極められる。フルネルソンだ。

「どうして? どうして立ってられるのよ?」

極められている苦痛よりも、自分の渾身の攻撃を受けても笑顔で立っていられる背後のレスラーへの恐怖が勝ち、思わず叫んでしまう。

「簡単ですよ。私がレスラーだからです」
「私だって」
「そうですね〜。ではキャリアの差というやつです。私とめぐみちゃんのキャリアの差は4年。だいたい400試合ぐらいの差です〜」

首関節にかけられている圧力以上に、400試合という数字の重さがめぐみを打ちのめす。

「400試合の実戦の差。それが私とめぐみちゃんの差ですかね〜。」
「……」
「それと、めぐみちゃんの攻撃は素晴らしかったですよ。まともにくらってたらお姉さんとっくに失神しちゃってます〜
 あのハイキックは顔を肩につけて揺れるのを最小限に抑えてましたし、最後のニールキックは当たる瞬間に首を振って威力を殺したんですよ」
「そんな……」
「大丈夫。あと200試合もすれば、めぐみちゃんも立派なレスラーになってますよ〜。じゃあ、おやすみなさい」

自分の身体が後方へ流れていくのを感じた。逆さまになった世界が視界に広がった瞬間めぐみの意識はようやく暗い安らぎへと落ちていった。


以上終わりです。お目汚しすいませんでした。
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