771名無しさん:2009/07/14(火) 23:39:23
電波が囁いたので投下します。石川涼美×武藤めぐみの続編的なものです。
神田幸子×武藤めぐみの打撃マッチです。



1.
静かなオフィスだ、神田幸子は社長室に呼び出されるたびにそう思う。
下階には道場もあるのだが、掛け声はおろか振動すら感じることはない。防音設備に余ほどの金をかけているのだろう。

「失礼します、遅れてすいません」
「……ああ」

執務室に入った神田を出迎えた社長の顔色は優れない。まだ三十路そこそこのはずなのだが頬がこけ、やつれてしまっている。

「大丈夫ですか、社長」
「私のことはいい。それよりも大切な話がある」
「打撃ルールトーナメントの件ですか?」
「察しが良いな。知っての通り、我が団体は三ヵ月後に各団体と協力して打撃ルールトーナメントを開催する。
 だが、ここにきて新女がミミ吉原を出し渋りだしてな」

社長は余程気を揉んでいるのか、大きく溜め息をついた。だが、それも仕方のないことだろう。
元全日本空手王者であり、プロレスに転向してからは関節技の名手として人気のあるミミ吉原が出るのと出ないのでは集客にかなりの差がある。
社長の顔色の悪さは新女との交渉が上手くいっていないからだろう。

「それで私はどうすれば?」
「お前には来月うちと新女で行う打撃ルールのワンマッチに出てもらいたい。そこで高慢な奴らの鼻をへし折ってやれ。
 そうすれば、私もミミ吉原を釣り上げることができる」
「対戦相手は?」
「武藤めぐみだ。やれるか?」
「やってみせます。ですが、なぜ武藤なんです?」

神田の疑問に社長は一冊のプロレス雑誌を投げよこした。

「二ヶ月前の興行で武藤めぐみは石川涼美に手酷くやられたらしい、心のほうをな。
 打撃のスペシャリストが揃う我が団体の打撃マッチで勝利させることで自信を取り戻させようという魂胆だろう」
「なめられたものですね」
「まったくだ。だが、おまえが武藤を潰せばこの話は万事解決だ。私も胃薬をザラザラと呑む生活とはおさらばできる。
 ……それはそれとして千里はどうだ?」
「今頃、斉藤さんに蹴り殺されて、お尻を上げてピクピクしてる頃合だと思います」
「それはいかんな。ぜひとも声をかけねば、社長として」

デジタルカメラを取り出し道場へ向かう社長の表情は、さきほどとは打って変わり精力が漲り、どうしようもなくニヤけていた。
神田幸子は思う。少女のあられもない姿に興奮する性癖さえなければ尊敬に値する人なのだ、と。

772名無しさん:2009/07/14(火) 23:41:07
2.
打撃ルールワンマッチ当日、武藤めぐみはコーチ兼セコンドについてくれたミミ吉原と最終調整をしていた。

「相手の隙を見て、一気に大技を叩き込んで。短期決戦が鍵だから」
「……はい。あの、ミミさんにお願いがあります」
「なにかしら?」
「この試合、どんなことがあってもタオルは投げないでください」
「……わかったわ。めぐみちゃん、頑張ってね。あれだけ特訓したんだもの、結果はついてくるわ。」
「ありがとう、ミミさん」

マウスピースをつけ、リング中央に向かい様に、一ヶ月近く自分に掛かりっきりになってくれた先輩へ一言だけ礼を告げた。
少し照れくさくて、目を見て話すことは出来なかったけれど。

『ローブロー、頭突き、目突き噛みつき、投げ技と関節技は反則だ』

レフェリーの説明を聞き流しつつ、めぐみは目前に立つ神田幸子を見遣った。
普通のプロレスの試合なら格下の選手だが、打撃ルールとなれば話は別だ。アマチュアボクシングでならした拳は脅威といえる。
たしかに武藤めぐみの打撃センスは光るものがあったが、センスだけでは身につかないものがある。それがディフェンス技術とスタミナだ。この二つは明らかに分が悪かった。
プロレスならともかく打撃ルールでは、地力の差がありすぎる。それはいかに特訓しようとも埋めきれるものではない。
それがコーチ役を受けたミミ吉原の見解だった。
ダメージが溜まれば溜まるほど経験等の地力の差が出てしまうのなら、そうなる前に倒すしかない。

(博打でも何でも勝ってみせる。そうしないと私は前に進めないんだから)

めぐみは自身の決意を確かめるように硬く拳を握った。

773名無しさん:2009/07/14(火) 23:42:52
3.
『ファイッ』

レフェリーの合図とともにゴングが鳴り響く。
先に動いたのは神田のほうだった。牽制の前蹴りからローキックを放ち、さらにもう一歩踏み込んでローを放つ。
めぐみはこれを冷静にカットし、パンチの間合いまで入り込んできた神田にローキックを返すが、これはかわされてしまう。
しかし、バックステップでローを避けた神田の視界に広がったのは武藤めぐみのリングシューズだった。
めぐみはローキックの勢いを利用して、そのまま飛び後ろ回し蹴りを放ったのだ。

「チィ!?」

神田は顔面に靴裏を叩き込まれダウンするも、カウント3で立ち上がる。しかし、その表情には戸惑いが色濃く浮き出ていた。
その戸惑いを好機と見ためぐみは相手の間合いのぎりぎりまで助走し、一気に飛び上がった。

「クッ!?」

勢いのついためぐみの飛び膝を両腕で上から押さえつけるようにガードし、膝が顎に打ち付けられる寸前で防ぐ。

「まだまだっ!」

飛び膝を受けられ身体が落下を始める直前で、めぐみは神田の肩に手をかけ一気に足を振り上げる。
相手の頬を叩く確かな手応えを感じ、視界は頬を蹴られ倒れ込む神田を捕らえる。

(やった!?)

背中からマットに落ちるのを横転するようにして衝撃を和らげ、そのまま立ち上がる。
会場は歓声で沸き上がり、めぐみもそれに応えるように片腕を上げる。
だが、カウントが8を刻もうとしたとき、神田はあっさりと立ち上がった。口内を切ったのか、口の端から一筋の血が流れ出ていた。

「えっ!?」

血を流しながらも立ち上がる神田の姿に、かつての石川涼美の姿が重なる。

(まただ、また、起き上がってくる)

ゾワリゾワリと無数の蟲が蠢くように、恐怖心がめぐみの心の中を這い回る。
圧倒的に優勢な試合展開をしていたはずのめぐみは自身も気付かぬうちに一歩後退していた。

774名無しさん:2009/07/14(火) 23:44:05
4.
「曲芸は所詮曲芸。威力は期待できない……か」

武藤めぐみのセコンド役のミミ吉原は冷静にそう分析していた。
一度目のダウンを奪った飛び後ろ回し蹴り、二度目の飛び膝の後の変形ジャンピングハイキック。
これだけのトリッキーな攻撃が可能なものは、武藤を含めても五人といないだろう。並外れた跳躍力と精確な蹴りを可能とするしなやかな筋肉、この二つを併せ持つ人間でなければ不可能な攻撃だった。
だが、スプリングのようなしなやかなさを持った蹴りは、あらゆる角度から変幻自在に攻めることを可能とすることを代償に、そのしなやかさ故に自身の威力をも殺してしまう。

「あと一回のダウンでTKO勝ちだけど……」

カウント8で立ち上がった神田幸子を見る限り、派手な倒れ方の割にはほとんどダメージは見受けられない。
脳へのダメージをギリギリまで回復させていたのだろう。

「もう、子供騙しは通用しないわね」

二度目のダウンから復帰して、神田幸子の纏う空気が明らかに変わった。手負いの猛獣のような瞳、一歩でも彼女のテリトリーに入れば瞬く間に引き裂かれかねないイメージ。
そして、武藤めぐみの表情にも変化が見られた。開始序盤から2回のダウンを奪うという圧倒的に優位な展開を繰り広げながらも、その瞳には怯えの色が広がっていた。

(トラウマ……ね。やっぱり、社長の方針には断固反対するべきだったわ)

この試合の結果によっては武藤めぐみはプロレスラーとして使い物にならなくなるかもしれない。
自分がコーチ役になればなんとかなるだろう、そんな甘い考えは捨てるべきだった。
ミミ吉原は後悔と自責の念からギュッとタオルを握り締めた。

775名無しさん:2009/07/14(火) 23:45:54
5.
「どうした、急に元気がなくなったな? 来ないならこちらから行くぞ」

神田にジリジリと間合いを詰められ、めぐみはそのプレッシャーに耐えかねて相手の周りを回るように距離をとっていた。

(落ち着かなくちゃ、先手を取っていかないと攻め込まれる)

呼気鋭く息を吐くと、めぐみは身体を左右に振りながら神田の間合いに一気に入り込む。だが、想定されたジャブなどでの迎撃はなく、いとも容易くめぐみのハイキックは神田の頭部を射程に捉えた。

「やあっ!」

気合とともに繰り出したハイキックはバックステップで避けられるが、めぐみの攻撃はまだまだ止まらない。
ハイキックの勢いのままに回転して後ろ回し蹴りを放ち、さらに回転してミドルを放つ。視界にはミドルをバックステップで避け、蹴り終わりに攻撃を重ねるために前進する神田の姿が映った。

(ここだ!)

ミドルの勢いのまま回転し、一度ダウンを奪った必殺の飛び後ろ回し蹴りを放った。
だが、……

「最初からアクロバットがくると分かっていたら、くらう馬鹿はいないさ」

必殺の一撃は左ステップで容易く避けられ、着地後、無防備になっためぐみに神田が迫る。

「はあ!」
「シッ」

勘だけを頼りにバックハンドブローで強襲するも、これはダッキングで避けられてしまう。
そして、

「シュッ」
「ぐぇっ!?」

無防備なめぐみのボディを神田のレバーブローが襲った。
薄いオープンフィンガーグローブに包まれただけの拳が肝臓を抉り取るように打ち込まれ、連続攻撃で息を切らしかけていためぐみはたった一撃で腰が落ちそうになる。
さらに、脚から力が抜けきるまえに胸部を前蹴りで強打され、ロープまで吹き飛ばされてしまうが、ロープを脇で抱えるようにしがみつき、めぐみはなんとかダウンを回避した。
しかし、これがめぐみを更なる不幸へと追い込むことになる。
ロープにしがみつきダウンを拒否するめぐみの顔に2発3発とジャブが打ち込まれ、これが鼻の粘膜を傷つけ出血してしまう。
ヌルリとした不快な感触が鼻腔を満たし溢れ出す。紅い斑点がポタリポタリと青いマットを汚した。

776名無しさん:2009/07/14(火) 23:48:24
6.
「亀になってはダメよ。膝で距離をとって」

ラッシュで固められ、ロープ際で防戦一方になっているめぐみにミミ吉原の激が飛ぶ。
攻撃は顔面、それも出血している鼻を中心に集中していた。傷ついた鼻腔を刺激され、ドバドバと血液が溢れ出す。
鼻からの出血は呼吸を乱し、スタミナと思考力を奪っていく。ガードをするために極端に狭くなった視界で、相手の攻撃を追おうとするが、速射砲のような拳を防ぎきることはできなかった。

「ボディがガラ空きだ」

視界から拳闘士の姿が消え、胃袋を刺し貫くようなボディアッパーが打ち込まれ、喘ぐ暇もなくレバーブローの追撃が無防備な腹を抉った。

「オェッ、ゥグ」

脚から力が抜け、その場に四つん這いになって倒れてしまう。
全ての音が遠くなった世界で、カウントは進んでいく。

(嫌、嫌よ。負けたくないっ!)

鼻からの出血と内臓の痛みで満足に呼吸もできないまま、めぐみはそれでもギリギリで立ち上がった。

「まだ、やれるか」
「当然よ」

瞳に強い意志を湛えファイティングポーズをとり、審判を退かせる。

(立った3発のボディで足が止まるなんて。……早くダウンを奪わないと)

めぐみは鉛のように重い脚を酷使して、相手の間合いに入り込もうとする。アクロバットが無理なら、めぐみがダウンを奪う方法は限られる。

(その顎に私の拳を叩き込んでやる)

速射砲に例えられるほど速く強力な神田の左ジャブを腰から上だけの動きで掻い潜り、あと一歩で必殺のアッパーが届くというところで両者の距離が一気に縮まる。
熱い何かに抱きしめられる感覚とともに、耳に嫌な音が響いた。

ミシリ

鋭い呼気とともに蹴り入れられた膝がめぐみのアバラ骨を砕く。

「ああ、ど……してこんな?」
「キックボクサーやムエタイとやり合ってるんだ。首相撲ぐらい覚えるさ。……下手だけど」

組んだ状態から突き放すように押し込まれバランスを崩しためぐみの身体を、神田の容赦のないボディ攻めが襲う。
ミシ、メキリ、ボキ、めぐみの耳朶を骨が折れる音がうつ。

「ァァ、ウァ」
「これで4本ぐらいか。……もうギブアップしたほうが良い」
「いや、ぃやよ」
「……ここからは地獄だぞ」

腕はダンベルを括り付けられたように重く、脚は血の代わりに鉛を流されているかのように重い。
腹部は今もなお殴り続けられ、リアルタイムで紅く燃えた鉄棒を突き刺されているかのような痛みが脳の神経を焼き切る。

「ギブアップしろ、武藤。二度と立てなくなる」
「い……やよ。倒したければ私の顎を殴りつけて意識を飛ばせば良いじゃない」
「……そうか、分かった」

めぐみは意識を失って倒れる自分を幻視した。

777名無しさん:2009/07/14(火) 23:51:03
7.
それは突然の幕切れだった。

「レフェリー、私はこの試合を放棄する。これ以上は試合ではなくなる」

神田幸子はそれだけ告げると、リングから立ち去った。
誰も彼もが戸惑っていた。観客もレフェリーも、そして試合をしていた当事者である武藤めぐみも。ただ、ミミ吉原だけが武藤めぐみに駆け寄り、今にも崩れ落ちそうになっていた身体を支えた。

『ふざけんなー、呼び戻せー』
『金返せ、ゴラァ』

観客席からは怒涛のブーイングがリングに浴びせられる。
そんななか一人のレスラーがリングに現れた。銀色の髪をなびかせるレスラーはレフェリーからマイクを奪うと観客を見回した。

「大変なことになってしまいましたね。みなさん、さぞかしご不満でしょ。私ももう少しでイケそうでしたのに」

艶っぽい声を観客に向けるのはフレイヤ鏡。フリーのレスラーだ。

「でも、あまり神田さんを責めないであげて。彼女はただ全力を出せない試合が不満だったの。だって、サンドバックを殴っているようなものでしたもの」

その言葉にめぐみはビクリと身体を振るわせる。

「みなさんももっとエキサイティングな試合がみたいでしょ? そう例えば神田幸子やミミ吉原が出場する打撃トーナメントとか……ねぇ?」

観客席にどよめきが広がり、やがて

『ミミさん、やってくれー』
『めぐみの仇とってやれ』
『新女の魂みせてくれ』

大きなうねりとなって会場を揺るがす。

「どうなさいます、ミミさん」
「これが狙いだったのね。神田さんはあんなことするヒトとは思えないもの。全部あなたが仕組んだことだったのね」
「私はただお客様の希望を代弁したにすぎません。あとはプロレスラーミミ吉原が観客の声に応えるか応えないかの問題ですわ」
「……分かりました。打撃トーナメントに出場します」

暫しの逡巡のあと、ミミ吉原がそう宣言すると、会場からは割れんばかりの声援が飛び、リング脇に控えていたカメラマン達がこぞってフラッシュを焚いた。
観客の声援とフラッシュが瞬くなか、武藤めぐみは一人涙を浮かべた。
今この瞬間、誰一人自分を見ている人間はおらず、皆がミミ吉原の打撃トーナメントに心躍らせていることに。
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