304 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:05:15 ID:TIBe4AkU
>>280、>>284を前振りにしてお願いします。

―――――――――――――――――――――――――――

WARSと詳細不明の団体の抗争、最終決戦。60分のアイアンマッチ。

リング上では、決戦に臨む二人のレスラーが視線を交わしていた。

一人は、サンダー龍子。WARSの強さの象徴。鍛え抜かれた肉体と不屈の精神を併せ持ち、幾度となく奇跡を起こしてきた、誇り高き反逆の女神。
主戦級のレスラーのほとんどが敵の軍門に下るという屈辱を受けてもなお、会場のWARSファンの気持ちが萎えないのはひとえに彼女の存在あってのこと。
俺たちにはまだ、彼女がいる――――――彼女がいる限り、どんな苦境に立たされようとも、WARSは必ず立ち上がる。
そんな、信仰にも似た思いを抱かせるに足るレスラーなど数えるほどしかいない。そして、龍子は間違いなく「そのような」レスラーであった。

もう一人は、大空みぎり。現代に甦ったジャイアント。今まで表舞台に立ったことはないが、有無を言わさぬ肉体的説得力、そして何よりこの謎の団体の大将を務めるという事実が、彼女がただ
者ではないことを物語る。
その威圧的な巨体と不釣合いな可愛らしい顔立ちが、なお一層底知れなさに拍車を掛ける。
この巨人の実力が一体どれほどのものなのか……ひょっとしたら、それは本人ですらわかっていないのかもしれなかった。

「貴方が龍子さんですか〜。お話には聞いてます〜」
「へえ……お前等みたいな外道の世界にも名が売れてるんだな、私。光栄だよ」
「いえいえ、謙遜なさらず〜。すごい強いって有名なんですよ〜」

嫌みのつもりで言ったんだがな。受け流されたのか、それとも単に鈍いのか、みぎりの暢気な受け答えに軽い苛立ちを覚えつつ、龍子は不敵に笑って見せた。

「まあいいさ……今日は存分に暴れさせてもらうよ。お前もつくづく、運がないね。今日の私は手加減できない」
「いえいえ、こちらこそそのつもりです〜。思いっきり潰しちゃいますけど、恨まないでくださいね〜」
「ッ…………言ってくれるじゃないか!」

これから散歩に行こう、ぐらいの気安さでさらりと勝利宣言をするみぎり。その失礼な物言いが、龍子の怒りを掻き立てる。
視線を切り、コーナーへ戻る両者。龍子への歓声とみぎりへのブーイングが渦巻く中、試合の開始を告げるゴングが鳴り響いた。


コーナーから、お互いゆっくりと歩み寄る両者。
龍子の油断なく光る眼光と、みぎりの自信に満ち溢れた眼光がリングの中央で絡み合う。
制空圏が触れ合う間合いに入り互いに足を止めると、同時に手四つの体勢に入った。

「……フン、そうかい。この私にパワーで勝てる、と。そういうことなんだな」
「こっちもびっくりです〜。私と力比べする人なんて、初めてですから〜」
「さっきから、いちいちカンに障るやつだな、お前は!」

互いの掌をガッチリと合わせると、満身の力を込めて、みぎりを捻じ伏せんとする龍子。
この生意気なデカブツに、身の程を思い知らせてやろう。パワーに自信があるようだが、所詮井の中の蛙。世界基準というヤツをその身に叩き込んでやる!
日本のレベルをはるかに超え、世界のメジャー団体にまでその名を轟かせた龍子の豪腕が、みぎりの腕をじりじりと押し込んでいき……。

「せーの、えいっ♪」

一気に押し返された。

「何…だと……ぐっ、くぅぅっ」

驚愕の表情を浮かべる龍子。自分は一切、手を抜いていない。顔面は紅葉のように紅潮し、筋肉の張った双腕ははちきれそうだ。だが、みぎりに上から捻じり込むように力を加えられると、コン
プレッサーにかけられたかのように身動きが取れない。
何より、龍子が信じられなかったのは、そのデタラメなパワーを発している大女が余裕の笑みを浮かべていることだった。

「さすが龍子さんです〜。これなら、全力出しても大丈夫かしら〜?」
「…………!!」

まだ全力ではない。にわかには信じ難い言葉をさらりと吐くと、みぎりはその秘めたるパワーを少しずつ解放していく。
次の瞬間、龍子の全身に、かつてないほどの「重さ」がのしかかった。
人間の腕力から生み出される圧力ではない、そう、例えば山から切り出された巨岩。
その巨岩がひとつ、ふたつと積み重なりピクリとも動かせないような感触。
修業、特訓、鍛錬……そういったものをせせら笑うかのような常識はずれの力が、龍子を押し潰していく。
気がつけば、龍子の身体はリングに背中を付くギリギリまで押し込まれていた。

305 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:07:03 ID:TIBe4AkU
「うううっ、ぐっ、くああああ…………!!」
「うふふっ、我慢強いですね〜。でも、そろそろ……」

このままリングに張り付けてしまおうと、みぎりは両の腕に更に力を込める。
限界を超え、大きくたわんだ龍子の身体。

「ぐっ……調子に……乗るな!!」

次の刹那、龍子は自分から身を沈めると、一気にみぎりを引っぱり込む。押し合いから急に引きに転じられ、みぎりは対応できずにバランスを崩し、逆にリングに這いつくばる。
そして、龍子はそのままみぎりの右腕を捕らえると、脇固めを極めた。

「きゃっ?……あっ、あうう……い、いたぁい……」
「押して駄目なら引いてみろ、ってな。これは力持ちコンテストじゃないんだよ」

そうは言いながらも、龍子は内心で舌打ちしていた。持ち前のパワーで相手を圧倒し、捻じ伏せるのが龍子のレスラーとしてのスタイルだった。国内のトップレスラーにも、海外のタフでパワフル
な連中にも貫き通してきた誇りとも言うべきものだった。
それを、曲げさせられた。
その原因たるみぎりに対する驚嘆と、曲げざるを得なかったことに対する屈辱が龍子の心に影を落としていた。
しかし、この戦いでそんなことを考えている余裕などはなかった。

「ん〜〜〜っ、もう……やめてくださぁいっ!!」

苛立ちを含んだ声をあげると、みぎりは上体に力を込めて起き上がり始めた。
しっかりと腕を極められた状態にもかかわらず、強引に身を起こしていくみぎり。
龍子を右腕に絡みつかせたまま、上体を起こし両脚を踏ん張って中腰で無理矢理立ち上がると、肩が壊れるのもいとわない勢いで、右腕をリングに叩き付ける。
腕を極めていたため、十分に受身を取れなかった龍子。全身をしたたかにリングに打ち付けると、たまらずみぎりの右腕を解放する。

「あくっ……なんつー無茶な外し方を………………!?」

みぎりの馬鹿げた怪力に改めて驚きを覚えつつ、痛みを振り払い立ち上がろうとする龍子。しかし、顔をあげ、視線を向けたその先に待ち構えていたのは、人間の頭ほどある両拳を大きく振りかぶり、今まさに振り下ろさんとするみぎりの姿だった。

「もう……なんてこと、するんですか〜!!」

みぎりのハンマーブローが、龍子の背中に振り下ろされる。一撃で肺が潰れ、空気が押し出される。

「今日は、私が社長にいっぱい、いいところを見せる日なんです〜!!」

ブレーキの壊れたダンプカー……否、プレゼントをねだる子供が駄々をこねるように、滅茶苦茶に拳を叩きつけていくみぎり。

「貴方は、私に、潰されてればいいんです〜!!」

社長……? いいところを見せる……?
みぎりの言葉に不可解なものを感じつつ、雨あられと降り注ぐ拳の豪雨に耐え続ける龍子。
いや、傍目から見れば耐え続けていると見えるかもしれないが、龍子自身はなんとか抜け出そうと必死だった。ただ、みぎりの圧力が凄まじくて抜け出せないのだ。
先ほどの手四つのときにも感じた「重さ」を、龍子は再び感じていた。

『「痛い」と感じさせるようでは駄目だ、「重い」と感じさせることこそ最上』

ものの本で、合気柔術の達人がそんなことを言っていたっけ。多分意味合いは違うだろうけど。

そんなことを思い浮かべつつ、必死で踏ん張り続ける龍子。しかし。

「がっ・・・・・・!? う……あっ………!!」

みぎりのフルスイングが、龍子の後頭部を殴りつける。目前に星が散らばるような錯覚を覚えると、瞬間的に龍子の視界がホワイトアウトを起こす。
全身を襲う不快な痺れ。スラム系の技を受けたときに幾度となく味わってきたあの嫌な感じに身を震わせる龍子。
その様子を見て、みぎりは表情を崩すと、拳を叩きつけるのを止めた。そして、龍子の首を抱えて引き起こし、その腹に思い切り膝を突き立てた。
ハンマーブローで押し潰し、ニーリフトで突き上げる、みぎり得意のムーブが炸裂する。

「おうっ!? ぐほっ……げほぉぉぉぉぉぉっっ!!」

砲丸を投げつけられたような衝撃が龍子の腹をひき潰す。生半可な打撃ならはじき返してしまう程に鍛え上げられた腹筋が、あっさりと突き崩されてしまう。
その身をくの字に折り曲げ、腹を抱えてのたうち回る龍子。

306 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:09:05 ID:TIBe4AkU
「さて、それじゃあ1本目、いっちゃいましょうね〜」

そう嘯くと、龍子の身体を抱え上げてコーナーポストに座らせるみぎり。そして、自身もコーナーによじのぼると、そのままブレーンバスターの体勢に入ろうとする。
いかに龍子といえど、みぎりの長身をもって雪崩れ式のブレーンバスターをかけられては、3カウントは必至。会場から悲鳴が上がる。
……しかし、ここで黙ってやられているようなレスラーなら、龍子がWARSの大黒柱として皆から敬われるはずがなかった。

ゴシャッ…………

鈍い音が会場に響き渡る。コーナーポストには、龍子と、龍子を抱え込もうとする姿のまま固まったみぎり。そして、みぎりの顔面に深くめり込んだ龍子の額。
龍子がゆっくりと頭を引くと、みぎりの鼻から流れ出た血が赤い糸を引き、リングに痕をつける。
みぎりの、鼻筋の通った可愛らしい顔立ちが無惨に潰され、鮮血に染まる。
余りのことに表情を失ったみぎりの顔面に、さらに続けて額をぶつけていく龍子。みぎりの整った鼻が完全に潰され、出血がさらに夥しくなる。
コーナーから降り、声もなく顔面を押さえてうつむくみぎり。

「……随分好き勝手やってくれたじゃないか……」

みぎりを追いコーナーを降りると、龍子は怒りに満ちた形相でみぎりを睨みつける。そして、うつむいたままのみぎりの髪を引っ掴み、右拳を握りこんだ。
力こぶが盛り上がるほど強く、固く握り締めた拳をキリキリと引き絞る。みぎりの顔面に狙いをつけると、緊張しきった背筋を一気に解き放つ。
巨大な弓から放たれた矢のごとく、龍子の拳が風を切り、みぎりの固い頭蓋骨を打ち抜く。
それだけでは終わらない。打ち終わりから体勢を戻す勢いを利用して、拳を解き逆水平チョップでみぎりの厚い胸板を打ち据える。
さらに拳を握りグーパンチ、逆水平、グーパンチ!

「あっ! うっ! 痛……ぎゃっ!!」

肉と肉が弾け、骨と骨がぶつかり合うリズミカルな炸裂音に交じり合う、みぎりの悲鳴。
今までのレスラー人生でまともに打たれたことのないみぎりは、龍子のラッシュに怯えの色を隠せない。
頭を抱え、いやいやをするように手を振るみぎりに、龍子は更なる追撃を加えていく。

「龍の逆鱗に……触れたようだねっっっ!!」

そう一喝すると、ヘビー級の身体を目一杯使い、強靭なバネで高く垂直に飛び上がる。
そして、がら空きのみぎりの首を容赦なく蹴りつけた。
龍子の得意技のひとつ、延髄斬りがみぎりの身体を大きく傾かせる……が、腰を落としながらも何とか水際で踏ん張って見せるみぎり。

(これで、ダウンが取れないのか!!)

パワーだけではない、みぎりのタフさに舌を巻きつつ、このチャンスを逃すまいと龍子はみぎりの上体を上からがぶり、腰に手をまわししっかりとクラッチする。
両脚を肩幅より少し開き、全身に力を満たしていく。
これまで幾多のレスラーたちを葬り去り、龍子に勝利の栄光をもたらしてきた伝家の宝刀・プラズマサンダーボムが発射体勢に入った。

「1本目、いっちゃいますって言ってたな……どうやら、先に1本いただくのは私のようだな!!」

両腕に、両脚に、背筋に力を込め、自分の下で窮屈そうに身を折り曲げている巨体を持ち上げようとする龍子。
しかし、次に龍子が感じたのは、人間の身体を持ち上げる重みではなく。

大地に根を張った巨木。

そして、巨木が雪の重みでたわんだ枝を持ち上げる力強さ。

気がつけば、持ち上げられているのはみぎりではなく、技を仕掛けていた龍子の方だった。
みぎりは、押さえつけられていた上半身を龍子ごとゆっくりと起こすと、そのまま龍子を後方にひっくり返して見せたのだ。

「……ッ…………ッッッ……!!」

まさに絶句だった。ここぞという場面では仕掛けて百発百中、絶対の必殺技が、技も満足に掛けられることなく返された。
確かにみぎりの力は計り知れない、それは今まで肌を合わせてみて存分に思い知ったはずだった。
しかし、万全の体勢を取ったプラズマサンダーボムを返されるなどということは、龍子の想像の遥か彼方にあることであった。
言葉を失い、リングに座り込む龍子の前に、すっかり体勢を立て直したみぎりが立つ。

307 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:10:10 ID:TIBe4AkU
「ひどいです〜……顔、血でべチャべチャです〜……」

目を潤ませ、今にも泣きそうな顔のみぎり。優位に立っているのはみぎりだというのに、その言葉には焦燥が滲む。

「どうしましょう〜……こんなみっともない姿、社長はきっと嫌がります〜……」
「くっ……何をさっきから社長、社長と……」

必殺技を破られて激しく動揺しつつも、気持ちを奮い立たせて起き上がり、キッとみぎりを睨みつける龍子。しかし、みぎりは心ここにあらずといった感じで独り言を呟くだけである。

「クソッ……戦いに、集中しろぉっ!!」

苛立った龍子は、大きく飛び上がると全体重を乗せたジャンピングエルボーを放つ。

「……こうなったら、仕方ありません〜」

みぎりの顔面に、龍子の肘が吸い込まれていく。肉体のぶつかり合う音が響きわたり、みぎりの頬が深々と抉られる。
しかし、みぎりの身体はもはや揺らぐことはなく、逆に宙に浮いた龍子の身体をしっかりと受け止める。

「社長の喜ぶこと、いっぱい、いーっぱい、やらなきゃ〜」

そして、龍子を高々と持ち上げると、一切の遠慮なく、全力でリングに叩きつけた。

「げはぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

腕力だけで龍子の全力を押さえ込んだみぎりの超怪力。その力を、全身をフルに使い爆発させる。
リングに激突する刹那、龍子は自分の身体が粉々に砕け散るのを感じた。頭のてっぺんからつま先まで、自分のコントロールから遠く離れてバラバラになってしまったようだった。
小刻みに痙攣する龍子を押さえ込むみぎり。レフェリーがリングを叩く。1、2、3。
アイアンマッチの一本目を取ったのは、みぎりだった。

「さあ、どんどんいきますよ〜。覚悟してくださいね〜」

依然として身体を動かせない龍子の耳元に口を寄せて、みぎりは地獄の始まりを宣言した。


―――――――――
―――――――
―――――
―――


308 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:11:21 ID:TIBe4AkU
キリ……キリ……キリ……

すっかり押し黙ってしまった会場の中。
リングの中央で、二人の大きな人影が絡み合っていた。
黒いリングコスチュームに身を包んだ大柄な女性が、さらに一回り大きい、フリルつきのコスチュームの女性に締め上げられているのだ。

……試合は公開処刑の様相を呈していた。
一本目を取った後、回復もおぼつかない龍子に対し、みぎりが間断なく攻撃を仕掛けたのだ。
万全の状態でさえ、みぎりの攻めを必死で凌いでいた龍子。あの場面、プラズマサンダーボムを仕掛けたあの場面で先に一本取れてさえいれば、流れをつかめたかもしれない。
しかし、龍子はみぎりのスイッチを入れてしまった。リミッターを外したみぎりに蹂躙される、龍子の肉体。
鋼のごとき肉体も、人間の限界を突破してしまったような暴威に無惨にも打ち砕かれ、リング上で無様に踊り続けた。
そして先程、みぎりの荒々しいラリアットに吹き飛ばされ、本日9回目のKOを喫した龍子は、朦朧とした意識を回復する間すら与えられず、引き起こされストレッチプラムに捕らえられていた。

「どうですか〜? ギブアップ、しちゃいますか〜?」
「ぁ…………ぅ、ぁ…………ぁ……」

ギブアップを促すみぎり。龍子の身体はまるでコロネのように大きくねじられ、全身の筋肉が、骨の継ぎ目が、これ以上は壊れてしまうと悲痛な叫びを上げている。
地獄のような激痛に身を焼かれ、しかし余りのダメージの深さに声を上げることさえできない。
みぎりにしても、サブミッションは得意ではない。体格差もあり、少々窮屈だったのも事実。これ以上は埒が明かないと判断し、龍子を解放することにした。
拘束を解かれ、リングに倒れ伏す龍子。息も絶えだえのその頭を掴みあげると、みぎりは龍子の顔を自分の方に向けさせた。

「もう、いいんじゃないですか〜? 私も、ちょっとつかれちゃいました〜。アイアンマッチって、大変ですね〜」
「………………」
「これだけやれば、社長も喜んでくれるでしょうし、もうそろそろいいかな〜って、思ってるんですよ〜」
「………………」
「だから、参ったしちゃいましょう。そうしてくれれば、最後はやさしくフォールしてあげます〜」

降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる。言葉を変えればこれ以上ないほど尊大な物言いだったが、もはや逆転の芽が摘み取られた龍子にとってはある意味救いの手でもあった。しかし。

「……ラ……エ……」
「ん〜〜〜? なんですか〜? よく聞こえません〜」
「……ク……ソ……ク……ラ……エ……」

限界を超えた肉体、途切れとぎれの意識にあってなお、敗北を拒絶する龍子。

「……そうですか。わかりました〜」

せっかくやさしくしてあげるというのに…………。完全に気分を害されたみぎりは、龍子の頭を掴んだまま強引に引き起こすと、コーナーに向かって思いきりブン投げた。
弾丸のような速度でコーナーに突っ込む龍子。背を向けて受身を取ることもできず、ターンバックルと正面衝突を起こす。そのまま、ターンバックルを抱きかかえるような格好でズルズルと腰を落としていく。

「んもう……駄目じゃないですか〜。ちゃんともたれかかってくれないと〜」

崩れ落ちた龍子を改めて引き起こし、腕をロープに絡ませてコーナーにもたれかからせるみぎり。そして大きく距離をとると、巨体を揺らし、一直線に龍子に突進する。
そして、コーナーの直前で踏み切り、飛び上がる。
全体重を乗せたジャンピングニーパッドが、コーナーで身動きの取れない龍子の顔面を叩き潰す。

「がっ…………ふ……ッッ」

遠目からでもわかるほど派手な血飛沫を撒き散らしながら、ターンバックルを支点として身体を大きく浮き上がらせる龍子。その衝撃でロープから腕が外れる。
みぎりの大きな膝が顔から離れると、その反動でコーナーから一歩、二歩と夢遊病患者のように歩みを進める龍子。

「ぐ……ひっ…………」

そして、なんとも形容し難い呻き声をあげるとそのまま倒れこみ、血に染まった顔面をみぎりの胸に押し付けた。グチャリ……と嫌な音を残し、龍子の顔がみぎりの身体を滑り落ちていく。
そのまま尻餅を付きそうになる龍子を、下から抱え上げるみぎり。

309 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:12:27 ID:TIBe4AkU
「貴方がいけないんですよ〜。私の好意を受け取らないから〜」

そして、力を失った龍子をコーナーポストに座らせる。序盤で試みた雪崩れ式ブレーンバスターか……いや、違う。

「そんな失礼な人には、きつーくお仕置きしてあげます〜」

コーナーポストに上ったみぎりは、肩車の要領で龍子をうつ伏せに抱え上げる。

「うふふ、完全に壊れちゃうかもしれませんね〜。でも、仕方ないですよね〜」
「う……うぅっ……ぐぅぅぅっ……」

みぎりの言葉にも、苦しげに呻くだけでまともに応答できない龍子。みぎりは、その様に少々不満そうに鼻を鳴らすが、すぐに気を取り直して龍子を担ぎ直す。
そして、コーナーポストにすっくと立つと、そのまま重力に任せて横倒しになり、龍子を脳天からリングに突き落とした。

「ぶひぇぇっ………!!」

タワーリング・インフェルノとでも形容すべき、みぎりの巨体で敢行する雪崩れ式デスバレーボム。
まさに高層ビルが崩壊するような超破壊力をその身に受け、リングに大の字に倒れこむ龍子。両腕両脚をグッタリと横たえ、口をだらしなく開け放ったままの姿。
もう終わりだ、これ以上は無理だ……会場の誰もがそう思った。
しかし、次の瞬間、誰もがその目を疑った。

龍子が、起き上がろうとしている。
腕を突っ張らせ、上体をゆっくりと起こしていく。しかし、力がまるで入らないのか、突っ張った腕がリングを掴みきれずに、ズルリと滑っていってしまう。
それでも、何度身体が地に墜ちても、起き上がることを決してやめない。
当然、龍子に意識はない。まるで、絶対に引かず、諦めず、逃げなかった、龍子がレスラーとして歩んできた道のりが、魂となってその滅びゆく肉体を奮い立たせているかのようであった。

『龍子ォォォォォォォォッ、もういいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ』
『起きないでくれ、龍子ォォォォォォッ! 楽になってくれていいんだぁぁぁぁぁぁッ』

その悲愴な姿に、会場のファンから祈りにも似た声が飛ぶ。もういい、もう十分だ。その姿だけで十分だ。俺たちの大将を、どうか、どうか助けてください……!!

だが、往々にして、祈りは届かない。

ガクガクと身を震わせ、必死に起き上がろうとする龍子。その上空に、高く飛翔する巨大な物体。
自由落下の運動エネルギーが、長く伸びたその脚を分厚い刃と化し、龍子の首に振り下ろされる。
リングが壊れてしまったかのような衝撃音が轟く。首からその衝撃をもろに受けた龍子の身体が、リングに打ち付けられて激しくバウンドする。
破滅の音が収まったとき、そこには、レスラーの誇りごと木っ端微塵となった、サンダー龍子の抜け殻があった。
弛緩し、ダラリと伸びた肢体。光の消えた瞳。
放っておいても、KOで1本であろう惨状に、追い討ちをかけるように龍子の身体を押さえ込むみぎり。

「1、2、3……っと。うふっ、これで10本ですね〜」

3カウントを数えると、満足げな表情を浮かべるみぎり。程なくして、60分の経過と共に、試合終了のゴングが鳴らされた。

「うふふ、勝っちゃいました〜。社長、喜んでくれたかしら〜。……そうだ」

勝利の喜びに浸っていたみぎりだったが、何ごとか思いつき、小さく笑いをこぼす。

310 :名無しさん:2009/11/14(土) 21:16:58 ID:TIBe4AkU
「こうするのが、社長は好きなんですよね〜」

そう呟くと、リングに打ち捨てられた龍子の身体を持ち上げ、天に捧げものをするかのように両手で高々と差し上げた。そしてそのまま、リング際をゆっくりと練り歩く。
完全に破壊されたWARSの象徴を、じっくりと晒し者にして見せ付ける、外道の所業と言うにふさわしい蛮行。
お前たちの信じたサンダー龍子は斃れた。我々の膝元に屈しろ。留保事項なしの降伏勧告に他ならなかった。
当のみぎりは、社長を喜ばせようとしているだけなのだが。

会場に集まったWARSファン達は、ある者はうつむき、ある者は目を背け、ある者は嗚咽を漏らした。
否応なく見せ付けられた現実……WARSの完全敗北に、誰もが心を粉々に砕かれてしまった。

そんな、沈痛な空気の流れる会場の真ん中で、みぎりは陶然としていた。
今、この瞬間、社長の視線は私のもの。それに、帰ったら社長はきっと私を褒めてくださるだろう。そして、私は社長に一杯なでてもらうんだ……。
社長の掌の感触を思い出し、みぎりは歓喜に震えるのだった。

と、突然、みぎりの体に何かがぶつかってきた。
楽しい夢想を打ち破られ、不満げな顔で胴の辺りを見下ろす。
そこにいたのは、トレーニングウェア姿の少女。

「離せ…………」

みぎりの鳩尾辺りまでしかないその少女……WARSの新人ジュニアレスラー・佐尾山幸音鈴が、目に一杯の涙を溜めながら、みぎりを見上げている。

「龍子さんを、離せ…………離せよぉっ!!」

ストレートな敵意の視線をぶつけながら、みぎりのボディにパンチを打ち込んでいく。
入門したてのジュニア選手が、スーパーヘヴィ級のみぎりの腹筋を打ち抜けるはずがない。逆に、まだ鍛えこんでいない拳を痛めてしまう。
しかし、それにも構わず佐尾山はパンチを続ける。敵わないのはわかっている。しかし、こんな狼藉を許してはおけなかった。

「ん〜、うるさいですね〜」

みぎりは心底うっとおしそうな声を上げると、龍子を左肩に担ぎ直し、自由になった右手でちまちまとまとわり付くハエを振り払うかのように佐尾山を張り飛ばした。
すごい勢いでコーナーに吹っ飛ばされる佐尾山。

「そんなに好きなら……えいっ」

目を白黒させてへたり込む佐尾山の上に、龍子をポーンと放り投げるみぎり。大柄な龍子に押し潰され、苦悶の声を上げる佐尾山。

「ふう……これで、全部終わりですね〜。早く帰らなきゃ、帰って社長に……うふふっ」

そう言うと、重い空気の充満した会場を一人、悠然と退場していくみぎり。
リング上には、龍子の身体を抱きしめて、大声で泣き叫ぶ佐尾山がいた。
急ぎ駆けつけた救護班によって担架に乗せられた龍子にずっと寄り添いながら、涸れるまで涙を流した佐尾山の瞳に残ったのは、紅蓮に燃え上がる憎悪と復讐の炎。
許さない。WARSを、龍子さんを嬲り者にしたあいつらを、絶対に許さない―――――――――。

こうして、WARSと謎の団体の抗争は、WARSの完敗で幕を下ろした。
大きな絶望と、そして、小さな、しかし決して消えることのない火種を残して。
動画 アダルト動画 ライブチャット