467 :名無しさん:2009/12/29(火) 16:50:16 ID:PWY1fzLI
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<<440<<441
の続きです。三本立てなので一試合のボリュームは少なめです。
本当はクリスマスに投下したかったんですけど、間に合いませんでした。
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1.
記者会見の場で突如喧嘩を仕掛けられたAACは、WARSレスラーを自団体の本拠地であるメキシコに呼び寄せ、真剣勝負(シュート・マッチ)を持ちかけた。
サンダー龍子、石川涼美、柳生美冬の三名がこれに応じ、いまメキシコ最大級のモンテレー・アリーナにて、AACとWARSの決戦の幕が切って落とされようとしていた。


ファン達の熱い視線がリングに注がれる。AACファンの誰もが日本人レスラー達の暴挙に憤り、今日WARSレスラーが無様に倒されることを望んでいた。
ファンの熱い声援を受け、ミレーヌ・シウバは柳生美冬とリング中央で睨み合う。

「このまえは随分とナメた真似をしてくれたな。殺される覚悟はできてんだろうな?」
「私も石川先輩の思いつきに巻き込まれた被害者なのだが……。いや、リングの上では言葉は不要か」
「そういうことだ!!」

気合とともに繰り出された褐色のムエタイ戦士の左ミドルキックがサムライ女を強襲すると、レフェリーが慌ててゴングを鳴らす。
しかし、そのゴングの音すらも掻き消し、肉を打つ鋭い音が会場に響き渡った。

「くぁ!!」
「まだまだぁ!!」

痛みに表情を歪める美冬にミレーヌは間髪空けず右のミドルを蹴り込む。予想外の蹴りの強さに美冬は慌ててバックステップで距離をとろうとするが、

「逃がすか!!」

ミレーヌは追いかけるように飛び込むとワン・ツーと鋭いジャブを打ち、成す術無くガードを固める獲物を首相撲で転がす。

「くっ!?」

慌てて立ち上がろうとする美冬を、ミレーヌはさらにミドルキックで攻め込む。
ミドルキックを攻撃の主軸に置いたコンビネーションで、ムエタイ戦士は確実にサムライ女を追い込んでいた。

「――っ!?」
「さあ、デッドエンドだ」

背中に伝わる硬い感触に顔を蒼くするサムライ女を見て、ミレーヌは薄く笑った。
ガードを固める美冬に、ワン・ツーとジャブを打ち、ボディへの攻撃も織り交ぜラッシュを続ける。

「ハッ。コイツは良いサンドバックだ」
「くっ!!」

ムエタイ仕込みの素早いコンビネーションが、獲物をコーナーに捕らえ続ける。
プロレスでなければ、スタンディングダウンを取られても不思議ではないほどの一方的な攻撃。しかし、ガードの隙間から見える女の瞳は輝きを失くすどころか、その鋭さを増していく。

(なにを狙ってるか知らねぇが、この程度の実力でAACに挑んだのか? 小さな島国の戦士が思い上がるなっ!!)

468 :名無しさん:2009/12/29(火) 16:51:58 ID:PWY1fzLI
2.
頭部を守るためガードを固めて亀になっていた美冬の腹を、怒気を孕んだミレーヌのボディストレートが抉った。

「ごふぅっ!?」

腹に受けた強烈な一撃に、美冬のガードが下がる。

「これで終わりだ」

無防備になった美冬のこめかみ。ミレーヌは必殺の肘を打ち下ろす。
AACファンから、ワッと歓声が上がった。こめかみから血を流して倒れ込む日本人を想像して、ファンの誰もが興奮した。
しかし――。

「ギィア゛ア゛ァァァッ!!」

身もすくむ様な絶叫を上げたのはミレーヌ・シウバだった。
肘に焼けた鉄杭を突き刺されたかのような激痛が走る。戦士としての矜持が彼女を支えていたが、もし試合中でなければ悶絶して倒れ込んでいただろう。

「感触からして前腕の骨が砕けたか」

激痛をもたらす右腕を抱え荒い息をつくミレーヌとは対照的に、柳生美冬の声は落ち着いていた。

「死中に活を見出すのが武士の性。捌ききれない攻撃を額で受けるのはWARSレスラーの基本。
 ……そして、どれほど弱った相手だろうが確実に息の根を止めるのが、私の流儀だ」

一歩また一歩と距離を詰めてくる美冬に、ミレーヌは折れた右腕をダラリとぶら下げ、左腕だけで構えをつくる。
右腕からもたらせる激痛。それに耐えながら長時間闘うのは不可能だ。もし、折れた右腕を蹴られたら痛みで発狂してしまうかもしれない。勝つには自身から前に出るしかなかった。されど、ファンのまえでギブアップなどできない。
選択肢などなく、とるべき道はひとつしかなかった。

「ウオオ――ッ!!」

覚悟を決めて雄叫びとともに玉砕覚悟で特攻する。

「その意気や良し。だが真剣勝負をするには未熟」

美冬の呟きなど聞こえはしなかった。
今はただ渾身の左ストレートを当てるだけ。そのためならどんな痛みにでも耐える覚悟があった。

469 :名無しさん:2009/12/29(火) 16:59:51 ID:PWY1fzLI
3.
しかし、予想された痛みはない。ただ、異常な脱力感が身体を襲った。

「!?」

一瞬意識が途切れる。そして、気付いたときにはアリーナの眩いライトを見つめていた。どこか遠くでゴングのような鐘の音が鳴っている。
思考がまとまらない。ひどく鈍い思考の流れの中にひとつの映像が浮かぶ。
それは意識が途切れる前に見た芸術のようなカウンターのハイキックだった。頭頂部を狙い、振り子の原理を用いて相手の脳を揺らし、脳震盪を起こさせる鋭い蹴りだった。

「……サムライソードか」

現代に生きる武士が放った上段回し蹴り。それはまさしく刀そのものだった。

(アタシはAACの看板を守れなかった。デスピナ、カラス、あとは任せた)

ミレーヌは悔しげに涙を一筋流すと、その意識は深い闇へと飲み込まれていった。



WARS選手控え室
これから真剣勝負をするレスラーが放つとは思えない和やかな空気が室内を満たしている。
会場近くの飲み屋に片っ端から赤丸がつけられたガイドブック、食べかけのスナック菓子、携帯ゲーム機。
そんな真剣みの欠片もない室内で、石川涼美は大きく背伸びをする。

「次はわたしの番ですね〜」
「久々の真剣勝負なんだ。適当に楽しんで来いよ」
「もう、WARSの試合は全部真剣勝負ですよ。まぁ、相手を壊さないって言う前提条件付ですけど……」

ガイドブックの飲み屋をチェックしながら軽はずみな発言をするタッグパートナーを諌めるも、その声に力はない。
現在、WARSの社長の方針により、サンダー龍子や石川涼美のような団体の看板選手は昔のような潰し合いの試合をさせてもらえなくなっていた。
石川や龍子などには、それが大きな不満となり、ストレスになっていた。
そして、そのストレスを解消するための海外団体との業務提携だった。自団体の選手同士で潰し合いをさせるのを嫌った社長は、外国人選手を生贄に選んだのだ。

(本当は龍子と真剣勝負したいんですけどねぇ)

それが我が儘だと自覚しつつも、やはり願わずにはいられない。
胸にわだかまる不満を小さな溜め息ととも吐きだし、いつもの笑顔をつくる。

「言っても仕方のないことですし、今日はデスピナちゃんに精一杯楽しませてもらいましょう」

そう言い残し、選手控え室をでる。
自分が作った笑みがいつものソレとは違うことに、石川涼美は気付いていなかった。
花道へ向かう廊下で擦れ違う現地の新人レスラーが怯えるほど、その笑みは獰猛な野獣が獲物を見つけたときのソレと酷似していた。

470 :名無しさん:2009/12/29(火) 17:14:32 ID:PWY1fzLI
4.
『ジャップにAACの実力をみせてやれ――ッ!!』
『ジャップの悲鳴を聞かせろッ!!』

デスピナ・リブレは片腕を挙げ、観客の声援に応える。
それだけで観客のボルテージはさらに上昇し、倍ほどの声援が飛ぶ。

「すごい声援ですね。デスピナちゃんは人気者ですね〜」
「みんな、アンタが悲鳴を上げるところを期待しているんだ」

今にも頭を撫でてきそうな雰囲気の日本人を、デスピナは鋭く睨みつけ牽制する。

「その余裕の表情、すぐに潰してやる」

デスピナはそう叫ぶと、ファイティングポーズをとる。
熱くなり過ぎるなと、カラスに釘を刺されていたが、ミレーヌを敗北もあってデスピナの怒りボルテージはすでにマックスに近かった。

カアァァッン!!

会場にゴングが鳴り響く。
デスピナはいまだに構えすら取っていない相手へ突進した。跳躍力を生かした素早く力強いドロップキックが胸元を捕らえると、2,3歩後退し石川は痛そうに胸を押さえた。

「いったたたぁ〜」
「まだまだいくよ」

ネックスプリングで勢い良く立ち上がり、ようやく構えを取った石川へ再度突進する。
ブウンッと豪腕が耳元を過ぎ去った。あまりにも遅いパンチに呆れながらも、懐に飛び込みボディに左右のフックを叩き込み距離をとる。
軽快なフットワークと打撃技術を生かし、ヒット・アンド・アウェイを基本とした一撃離脱戦法を続け、試合の主導権を握る。

「アンタみたいなノロマな乳牛女に捕まるアタシじゃないんだよ」

石川の大振りな攻撃を掻い潜り、打撃技で着実にダメージを与える。
ジャブ、ボディフック、ストレート、アッパー、ミドルキック、ハイキック。ノーガードの部分にもてる技を全力で叩き込む。
しかし、それだけの打撃を受けながらも石川の表情は変わらない。その表情は一切の苦痛を浮かべることなく、リングを軽快に動き回るデスピナを追い続けていた。

(アタシの攻撃が効いてない? ……そんなわけない、強がってるだけに決まってる!!)

焦りを感じた自分を叱咤するように言い聞かせ、相変わらずのテレフォンパンチを避けてカウンターに右ストレートを合わせる。
拳に伝わる確かな手応え。それまで山のように動かなかった石川の膝が落ちる。

471 :名無しさん:2009/12/29(火) 17:16:41 ID:PWY1fzLI
5.
「チャ〜ンス!!」

デスピナの表情に笑みがこぼれる。
膝から崩れ落ちる相手の顔面を必殺の左フックが捕らえようとした瞬間。今にもダウンしそうになっていたはずの石川の口端に笑みがこぼれた。

(クソッ!? 芝居かっ!!)

自分が罠に嵌ったと気付き、デスピナの背中を冷たい汗が流れ落ちた。
必殺の拳は容易く避けられ、逆に全体重に回転力を上乗せされたソバットがデスピナの無防備な腹を襲う。
腹部にはしる強烈な衝撃。リング中央からロープまで吹き飛ばされ、デスピナの身体はマットに崩れ落ちた。
湧き上がる嘔吐感をなんとか抑え立ち上がろうとするが、膝から力が抜けてしまい倒れてしまう。それほど重い一撃だった。

「なんて馬鹿力だよ」

いや馬鹿力だけではない。ノーガードの身体に何度攻撃を入れてもケロリとしているそのタフネスもまた異常だった。

「……化け物め」
「化け物なんて失礼しちゃいますね。あなたの攻撃が弱すぎるだけですよ〜」

乱暴に髪を掴まれ、無理矢理立たされる。

「自分で立つのも苦しそうだから抱えてあげます」

立位対面の状態から石川の鍛え上げられた両腕が細い腰に回され持ち上げられる。デスピナの足がマットから離れると、一気に締め上げられた。

「アグゥッ!!」

背骨から肋骨を圧迫され、デスピナの口から悲鳴がこぼれる。
それでも何とか反撃しようと自由な両手で、石川の頭部や顔面、後頭部に拳を振り下ろす。

「……頑張りますね。それじゃあ、もうちょっと強く締めてみましょうか」

頭部に拳の連打を受けながらも相手の表情は変わらない。それどころか、よりいっそう力を込めデスピナの腰を絞り上げる。

「アグッ、ヴグゥ!! なんで、なんで効かないんだよォ!!」
「簡単ですよ。わたしは試合でも練習でも龍子の攻撃をずぅっと受けてきたんです。そんなわたしの身体を貴女の攻撃でどうにかできると思いますか?」
「!?」

石川にそう笑顔で問い掛けられ、デスピナは表情を引き攣らせる。
サンダー龍子のブルファイトに耐えてきた肉体、それを自分の攻撃で潰すことができるだろうか?
頭に浮かんだ疑問が苦痛に掻き消される。石川が腕の筋肉をさらに膨張させギリギリと締め上げたのだ。

472 :名無しさん:2009/12/29(火) 17:18:21 ID:PWY1fzLI
6.
「アグッ!! ハァ、ハァ……ウァ……ァァ」

だが、疑問の答えはすでに出ていた。もはや悲鳴を上げる力さえ残っていない自身の姿、それがすべてだった。

(畜生ッ……。こんな奴に何もできないまま終わるなんて)

必死に拳を振り上げ抵抗していたデスピナだったが、もはや石川の問いかけに応える力はなく、その口からは悲鳴さえ上がらなくなっていた。
ただ、ヒューヒューと空気の漏れる音が微かに聞こえるのみだった。

「期待外れですね〜。もっと元気のある娘だと思ってたんですけど、もうおねむですか?」

返事はない。筋肉が盛り上がるほど絞り上げていた腕を解き、デスピナの身体をマットに解放する。
だらりと弛緩した身体、涎で汚れた口元、力を失った瞳。誰が見ても試合続行は不可能だった。

「はぁ、不完全燃焼です。やっぱり真剣勝負をするなら龍子とやりたいですね〜」

マットに臥せるデスピナに一瞥をくれることもなく、石川はブーイングのなかを出口へと消えていった。



そして、本日のメインイベント――チョチョカラスとサンダー龍子の互いのベルトを賭けたタイトルマッチ――が幕を上げる。
だが、それはAACという団体の終焉にもなりかねない惨劇の始まりだった。

カアァァッン!!

惨劇の始まりを告げるゴングが会場に鳴り響いた。

「――ッ?」

サンダー龍子は両腕を広げ、打って来いとばかりに前進を始めたのだ。
ノーガードで向かってくる相手に戸惑いを感じたのは一瞬、カラスは自分の蹴りの間合いに入ると無防備な龍子の脇腹に鋭い左のミドルキックを見舞った。
ゴムを巻いた巨大な岩を蹴ったような感触が伝わると同時に、ガシリと脇に左足を挟まれ拘束される

(後頭部なら!!)

片足を掴まれたことに焦ることなく、カラスは掴まれた脚を支点に身体を回転させ、軸足にしていた方のつま先で龍子の後頭部を狙う。

「甘いな」

しかし、この攻撃は読まれていたのか、龍子に軽々と受けられキャッチされてしまう。

473 :名無しさん:2009/12/29(火) 17:20:28 ID:PWY1fzLI
7.
「おまえもデスピナ・リブレみたいに血塗れになってみるか」
「!?」

両足を抱えられた自分の姿が、記者会見場で龍子のジャイアントスイングの餌食にされた同僚の姿と重なる。
仮面の貴婦人の身体がマットから浮き上がり、グルグルと回転する。

「グゲッ!! ギャッ!! ガハッ!!」

回転しながら何度もコーナーにぶつけられるが、龍子のジャイアントスイングの回転は衰えることはなかった。
コーナーにぶつけられ血塗れになったカラスの頭部から。ピチャッピチャッと血が撒き散らされ、マットを真紅に汚す。
そして……。

ドタンッ!!

カラスの身体が派手な音を鳴らしてマットに叩きつけられる、さすがに体力の限界がきたのか、龍子はカラスの身体を投げ捨てると、荒い息をついた。

「さてと次はどうするかなっと――?」

1,2度深呼吸し追撃に移ろうとした龍子だったが、不機嫌そうに歩みを止める。
カラスの身体は、ビクリビクリと痙攣しその瞳はすでに虚ろだった。
龍子が無理矢理起こそうとすると終了のゴングが鳴らされた。

「そらっ」
駆け寄ってくる審判にカラスの身体を投げ渡すと、龍子は片手を思い切り天高く突き上げた。
日本ならここで歓声が上がっただろう。だが、会場はあまりの惨劇に静まり返っていた。

「ふん。日本人の拳じゃ歓声は上がらないか」

龍子はつまらなそうに呟くと出口へと消えていった。
AACヘビー級をかけたタイトルマッチはわずか5分足らずでAACヘビー級王者が負けるという最悪の形で勝負がついてしまう。
今回の興行で、石川のベアハッグであばらと背中を痛めたデスピナ・リブレと、龍子のジャイアントスイングで頭部をコーナーに何度も打ちつけられたチョチョカラスは三ヶ月の長期欠場を余儀なくされた。唯一、怪我の程度が浅かったミレーヌ・シウバも柳生美冬との試合後は不調に悩まされ、タッグベルトを他団体に流失させるなど失態が続く。
こうして、AACは主力選手を失い、長期の経営不振に頭を悩ませることになる。
そして、WARSの社長は……。

「龍子と真剣勝負させてくれないとやめちゃいますよ〜」
「涼美とセメントさせないってんなら、アタシはこの団体辞めさせてもらう」

エースコンビにそう詰め寄られ、頭を抱えていたのだった。


――終わり――
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